優れた性能を持つ「新金属」を生み出せば、製品の性能も向上する
さまざまな金属の「いいとこ取り」をする研究
金属には「展性」や「延性」があり、熱や電気の「伝導性」も高いことを、中学の理科で学んだと思います。ただし、金属でも、鉄とアルミニウムとでは展性・延性も伝導性も違い、比重も異なります。ほかの金属にもそれぞれ特性があり、どんな用途で使うかによって適した金属も変わります。
例えば、ノートパソコンのボディには、カバンの中で圧迫されても変形しない強度が必要です。しかし、強度が高くても重くて放熱性が悪い金属を使うと、使いにくい製品になります。さまざまな金属の長所を「いいとこ取り」をした金属を開発するのが「金属工学」という学問です。
地道な実験で最適配分の比率を探る
金属の性質を変える手法として古くから用いられているのが、金属に別の素材の元素を混ぜる「合金化」で、近年は「マグネシウム合金」が注目されています。マグネシウムは、鉄の約4分の1という軽さのわりに、引っ張られる力に強いのが長所です。一方で分子構造が「六方最密構造」なので一定方向にしか変形せず、さびやすいのが弱点です。そこで、長所を損なわずに弱点を補うため、亜鉛やイットリウムの元素を配合する方法が考案されました。ただし、やみくもに配合すると、うまく結合しなかったり割れやすくなったりするので、バランスを考えながら配合比率を少しずつ変える地道な実験が必要になります。
応用範囲が広い「新型マグネシウム合金」
軽さと引っ張られるときの強度はそのままに、曲げの強さ、さびにくさを併せ持つ「長周期積層構造型マグネシウム合金」が開発されたことで、航空機や自動車などの骨格部分への応用が進んでいます。鉄並みの強さがあって圧倒的に軽いため、燃費向上や操縦しやすさにつながるのです。
さらに、マグネシウムは生体に対して安全性が高く、血管を広げる「医療用ステント」などへの応用も検討されています。
さまざまな金属の特性を把握し、より優れた性能を持つ金属を生み出せるのが金属工学の面白さなのです。
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先生情報 / 大学情報
熊本大学 工学部 材料・応用化学科 教授 山崎 倫昭 先生
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