「ムギネ酸」を有機合成して地球を食糧危機から救え!
不良土壌で農作物を育て食糧危機に立ち向かう
世界の人口が2050年には90億人に達するともいわれます。それまでに世界全体で約70%、開発途上国では100%近くの食糧増産ができなければ、地球規模の食糧難が訪れると予想されています。しかし、森林伐採による農地の拡大は地球温暖化につながり現実的ではありません。
問題解決の道は、全世界の陸地の67%にも及ぶ農耕に適さない不良土壌で農作物を育てる方法を見つけることです。不良土壌の半分はアルカリ性の土壌で、鉄が水に溶けにくくなっているため、植物は根から鉄分を吸収できずに鉄欠乏症になり枯れてしまうのです。
ムギネ酸がサバイバルのカギ
イネ科の植物であるオオムギは、キレート剤の働きをもつ「ムギネ酸」を根から分泌します。ムギネ酸は鉄との錯体(さくたい)を形成して土壌中の鉄を溶かすことができます。この溶解したムギネ酸・鉄錯体を取り込むことで、オオムギはアルカリ性の土壌でも効率よく鉄イオンを吸収して生育できる仕組みを持っています。イネやトウモロコシなどほかのイネ科の植物は、ムギネ酸の分泌能力が弱いためにアルカリ性土壌では枯れてしまいます。しかし例えば、イネに鉄イオンを取り込ませる鉄供給剤であるムギネ酸を肥料として足してやれば、不毛な土地でも育つ希望がみえてきます。
有機合成化学の力でデオキシムギネ酸を合成
ただし、イネから抽出して作るデオキシムギネ酸は1ミリグラム数万円と大変高価で、肥料としてはとても使えません。そこで有機合成化学の力を用い、デオキシムギネ酸を効率的に有機合成する研究が進んでいます。そして、コストの安いアミノ酸を用いて実用的に合成したムギネ酸の誘導体は、アルカリ性土壌でもイネ科植物の生育に劇的な効果を示すことがわかりました。既存の鉄供給剤のような環境汚染の心配もないため、大量合成法の開発が進めば、グローバルな食糧問題の解決に貢献することは間違いありません。
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先生情報 / 大学情報
徳島大学 薬学部 教授 難波 康祐 先生
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