電磁場を活用して流体を制御する技術が、金属生産の常識を塗り替える

電磁場を活用して流体を制御する技術が、金属生産の常識を塗り替える

アルミは「電気の缶詰」

清涼飲料水の缶や、フォーク・スプーンなど、アルミニウムは生活に身近な金属の一つですが、ホール・エルー法という方法で製造する際に、「アルミは電気の缶詰」と言われるほど大量の電力を要します。
アルミニウムは、溶融氷晶石にアルミナを溶解して電気分解した後に、電解液との密度差を利用して取り出すのですが、その際にアルミニウムの上部に位置する電解液の厚さが非常に重要となります。電解液の厚さが足りない場合、下層の溶融アルミニウムが激しく振動して、短絡により装置が壊れてしまう可能性があります。一方、この電解液はあまり電気を通さないため、厚さが大きいと、たくさんの電力が無駄に消費されることになってしまいます。

5ミリ程度薄くできれば、莫大な金額が節約できる

アルミ生産現場では電解液の層を5ミリ程度でも薄くできれば、全世界で天文学的な金額の電気代を削減できると言われています。しかし、安定性の問題から、そのわずかな変化を与えることが現状では非常に困難なのです。そこで研究されているのが、直流磁場と交流磁場を組み合わせることで、溶融アルミニウムの振動を抑える技術です。つまり、性質が異なる2種類の磁場を活用し、メタルの流れを上手にコントロールして振動を最小化しようという研究です。

目的に応じたシミュレーションで制御精度を向上

電磁場で流れを制御する技術は、すでに単結晶の育成や製鉄分野などで生かされています。例として、集積回路などに使われる高純度シリコンウェハーを作る際は、電磁場を併用する「チョクラルスキー法」という技術が用いられています。また、溶解した鉄を、るつぼに触れないように電磁力によって浮遊させて不純物の混入を防ぐ「コールドクルーシブル」という技術が生まれました。磁場の強さやコイルの配置など、さまざまな条件をコンピュータ上で自由に設定してシミュレーションすることにより、溶融金属の制御に関する多くの知見を蓄え、これらの技術をさらに向上させることができます。

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九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 准教授 河野 晴彦 先生

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