わずかな違いも見逃さない ウイルスベクターの質量を解析
ウイルスベクターとは
遺伝子疾患やがんなどの治療法の1つ「遺伝子治療」には、「ウイルスベクター」という病原性を持たない組換えウイルスが使われます。感染の仕組みを利用して治療のための遺伝子を細胞に運ぶ「運び屋」です。遺伝子異常が原因の病気に対し、正常な遺伝子をウイルスベクターで導入して正しいタンパク質を作れるようにします。組換えウイルスは細胞を使ったバイオテクノロジー技術を駆使してつくりますが、ウイルスの外殻を構成するタンパク質が酸化していたり、中に入っているDNAが不完全だと、効果が下がるだけでなく副作用につながりかねません。そこで、ウイルスの質量や質量の分布を正確に調べる方法が必要になります。
ウイルスの質量を分析
分析方法の1つが「超遠心分析」です。ウイルス1つの重量は10アトグラム(500万ダルトン(Da))、サイズとしては数十ナノメートルしかありませんが、重力の20万倍ほどの大きな遠心力をウイルスを含んだ溶液にかけるとウイルスの沈降が始まります。この沈降の様子をデジタル化し、コンピュータで数値解析するとウイルスの重量と重量分布を特定できるため、外殻タンパク質が正しく組み上がり正常なDNAが入っているかが分かります。
ただし、500万Daの質量を持つウイルスの1カ所が酸化しても、16Daというわずかな質量変化しかないため、超遠心分析では検出できません。そこで「質量分析」を使います。外殻タンパク質を酵素で断片化してから高電圧でイオン化し、真空中で電圧をかけて加速します。イオンの飛行速度の測定から精密に質量を調べることができ、16Daの質量増加も検出可能です。
世界レベルの遺伝子治療を
現在、日本は遺伝子治療やウイルスベクターの分野で遅れをとっていますが、ウイルスの効き目や安全性を担保するための分析方法も多数開発されています。また、分析の自動化も進めており、日本の患者さんが待つことなく安心して治療が受けられる状況を作るため、まさに、日夜研究が進められています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 工学部 応用自然科学科 バイオテクノロジー学科目 教授 内山 進 先生
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