講義No.12148 生物工学

わずかな違いも見逃さない ウイルスベクターの質量を解析

わずかな違いも見逃さない ウイルスベクターの質量を解析

ウイルスベクターとは

遺伝子疾患やがんなどの治療法の1つ「遺伝子治療」には、「ウイルスベクター」という病原性を持たない組換えウイルスが使われます。感染の仕組みを利用して治療のための遺伝子を細胞に運ぶ「運び屋」です。遺伝子異常が原因の病気に対し、正常な遺伝子をウイルスベクターで導入して正しいタンパク質を作れるようにします。組換えウイルスは細胞を使ったバイオテクノロジー技術を駆使してつくりますが、ウイルスの外殻を構成するタンパク質が酸化していたり、中に入っているDNAが不完全だと、効果が下がるだけでなく副作用につながりかねません。そこで、ウイルスの質量や質量の分布を正確に調べる方法が必要になります。

ウイルスの質量を分析

分析方法の1つが「超遠心分析」です。ウイルス1つの重量は10アトグラム(500万ダルトン(Da))、サイズとしては数十ナノメートルしかありませんが、重力の20万倍ほどの大きな遠心力をウイルスを含んだ溶液にかけるとウイルスの沈降が始まります。この沈降の様子をデジタル化し、コンピュータで数値解析するとウイルスの重量と重量分布を特定できるため、外殻タンパク質が正しく組み上がり正常なDNAが入っているかが分かります。
ただし、500万Daの質量を持つウイルスの1カ所が酸化しても、16Daというわずかな質量変化しかないため、超遠心分析では検出できません。そこで「質量分析」を使います。外殻タンパク質を酵素で断片化してから高電圧でイオン化し、真空中で電圧をかけて加速します。イオンの飛行速度の測定から精密に質量を調べることができ、16Daの質量増加も検出可能です。

世界レベルの遺伝子治療を

現在、日本は遺伝子治療やウイルスベクターの分野で遅れをとっていますが、ウイルスの効き目や安全性を担保するための分析方法も多数開発されています。また、分析の自動化も進めており、日本の患者さんが待つことなく安心して治療が受けられる状況を作るため、まさに、日夜研究が進められています。

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大阪大学 工学部 応用自然科学科 バイオテクノロジー学科目 教授 内山 進 先生

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メッセージ

知的好奇心を育てましょう。科学技術の分野で役に立つには、まずはゆるぎない基礎力を身につけることが第一です。数学、物理、化学、生物、プログラミンなどは全て将来必要になるので、得意なものや好きなものだけではなく、苦手と感じるものでも面白いと思えるところを探し出して取り組んでみましょう。
ただし、ネットなどから簡単に得られる情報はほとんどが3次、4次情報なので情報が選別され情報量も減っています。高校生のうちに、自分で見聞きして1次情報を得られる方法を習得しながら能動的に知識をつけてください。

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。