がんを攻撃する免疫細胞を無限に増やす! 幹細胞医学の可能性
細胞の運命を操る
幹細胞は組織を作り出す能力を持っています。幹細胞の進路を決める技術を用いて病気の治療に貢献する分野が「幹細胞医学」です。例えば、あらゆる種類の細胞になることができる幹細胞であるiPS細胞から、がんを攻撃する免疫細胞「ガンマ・デルタT細胞」を人工的に作り出す研究が行われています。
ガンマ・デルタT細胞を増やせ
ガンマ・デルタT細胞は血液中のTリンパ球の中のT細胞のうち数%しか存在せず、90%以上はアルファ・ベータT細胞です。どちらもがんを攻撃する免疫細胞ですが、アルファ・ベータT細胞は細胞ごとに担当するがんが決まっており、そのがんの目印と個体ごと決まっている白血球の血液型「HLA」の組み合わせが一致したときにしか反応しません。一方でガンマ・デルタT細胞はHLAに関係なく、しかも幅広い種類のがんに存在する目印に対応するため、多様ながんや、他人のがんでも攻撃できます。
体内のガンマ・デルタT細胞の量には限りがありますが、iPS細胞を使えば無限に増やすことも可能です。将来的にはiPS細胞から作ったガンマ・デルタT細胞をがんの治療薬として使える日が来るかもしれません。
ウイルスと薬を活用してiPS細胞を作る
ただし、ただiPS細胞をリンパ球に変化させても、ガンマ・デルタT細胞はほとんどできません。ガンマ・デルタT細胞を作るには、出発材料としてガンマ・デルタT細胞から作製したiPS細胞を使う必要があります。ある2種類の医薬品とiPS細胞誘導因子を組み込んだセンダイウイルスを組み合わせることで、ガンマ・デルタT細胞に由来するiPS細胞を効率よく作製できるようになりました。
こうして作られたiPS細胞を試験管の中で変化させて作ったガンマ・デルタT細胞は、他人のがん細胞も攻撃できることが確認されました。センダイウイルスはiPS細胞からガンマ・デルタ細胞ができる頃には細胞内から消えるため、ヒトに害を及ぼすことはありません。
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