悪いやつばかりじゃない、ウイルスと生物との関わり

悪いやつばかりじゃない、ウイルスと生物との関わり

新しい学術領域「ネオウイルス学」

近年、従来の「ウイルス学」から発展して、「ネオウイルス学」という学術領域が提唱されるようになりました。これまでのウイルス学は、ウイルス自体を分析して解明していこうというものでした。対してネオウイルス学は、ウイルス単体を一方向から見るのではなく、多角的にとらえ、地球生態系の一員として研究しようという学問です。

遺伝子を変異させて機能を知る

ウイルス研究の基本は、ウイルスの特性を正確に知ることです。ウイルスの持つ遺伝子を操作することで、遺伝子自体やその遺伝子から作られるタンパク質の機能を調べます。例えば、ウシに病気を起こすウイルスとして「流行性出血病ウイルス」があります。このウイルスは、ウシやシカを病気にしますが、人間には病気を起こしません。また、感染したウシやシカ全てが病気になるわけではありません。それがなぜなのかを調べるためには、病気に関わりそうなウイルスのタンパク質を見つけ、その情報が書き込まれている遺伝子の一部を変化させます。もし病気が起こらなくなれば、その部位が重要な機能を持っていることになります。そして次に「なんでその部位が変化すると病気が起こらなくなるのか」を突き詰めていきます。このようにウイルスのもつ様々な機能を解明していくことで、感染症の治療などに役立つことが期待されています。

ウイルスはどこにでもいる

インフルエンザや新型コロナウイルスなど、私たちが普段話題にするウイルスは、人間や動物を病気にするウイルスが多いです。しかしこのようなウイルスはほんの一部であり、ウイルスはどこにでも存在しています。乳酸菌のように人の役に立つ細菌がいるように、ウイルスも、ある生物にとっては重要な存在であったりするのです。例えば、哺乳類と共存しているレトロウイルスの一種は、哺乳類の持つ特殊な組織「胎盤」の形成や多様化に関わっていると考えられています。
近年ウイルスの有効利用が進んでいます。前述の流行性出血病ウイルスの特性も実は何かに活用できるかもしれません。

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先生情報 / 大学情報

神戸大学 農学部 資源生命科学科 助教 松尾 栄子 先生

神戸大学 農学部 資源生命科学科 助教 松尾 栄子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

分子ウイルス学、感染症制御学

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校時代、英語が苦手で大学の学部は英語を避けて理系を選んだのですが、結局理系でも英語は必要でした。
苦手でもやらなければいけないことがあります。逆に文系でも、やろうと思えば理系的な分野に関わることはできるものです。本気でやりたいなら、頑張ればやりたいことができます。「自分のやりたいこと」を脇に置いて進路を決めることもできるでしょうが、やりたいことは持っていたほうが楽しいと思います。ただし、やりたいことは変化するので、それに固執しすぎないようにだけ気をつけてください。

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