iPS細胞を工学的技術で制御し、物理学の理論で解析する
iPS細胞の基本的な性質を解明する
iPS細胞とは、ヒトのあらゆる細胞になることができる「万能細胞」です。近年では、iPS細胞から作られた細胞シートを、網膜に移植する手術が行われるなど、再生医療や薬学での実用化が進められています。しかし、iPS細胞の基本的な性質は、まだ十分に解明されているわけではありません。iPS細胞が、どういう環境のもとで、どういう「ふるまい」をするのかを厳密に明らかにすることは、今後、医療や薬学の分野でiPS細胞が活躍するための不可欠の基礎研究と言えるでしょう。
人工的でシンプルな環境を作る
通常、再生医療などの分野では、iPS細胞をできるだけ自然に近い環境、つまりヒトの体の組成に近い環境の中で培養し分化させます。ヒトへの移植を展望するためには有効な方法です。しかし、一方で、あえて「人工的な環境」を作り、その中でiPS細胞がどのような変化を起こすのかを、厳密に細かく解析することも有効です。例えば、全成分を完璧に把握した培養液を独自に配合して、iPS細胞がどういう変化を起こすのかを解析するといった方法です。
物理学の基礎的な理論を応用する
また、iPS細胞が分化する仕組みを解明するために、物理学の理論を応用する方法もあります。例えば、細胞が増殖を経て原腸形成期に入ったとき、複数の細胞がバラバラに移動し、心臓になったり、肝臓になったりするのですが、このときの移動がランダムに起こっているのか、それとも何らかの目標を持った移動なのかを知ることは、iPS細胞の解明にとって、たいへん重要です。
もし、ランダムに移動しているのであれば、その運動は物理現象の1つであるブラウン運動の式である「アインシュタインの関係式」にあてはまります。つまり、あてはまらなければ、何らかの目標があることになります。iPS細胞の解明のためには、今後もさまざまなアプローチが求められているのです。
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長岡技術科学大学 工学研究科 技術科学イノベーション専攻 准教授 大沼 清 先生
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