生物物理学は、いかにして生物が生きているかを明らかにする
水には神秘性がある?
学問としても「水」には理論的な取り扱いが難しいという意味では神秘性があります。一方困った考え方として、以前、水の結晶をつくる時に「ありがとう」など「よい言葉」をかけると美しい結晶ができるという話がありました。驚くことに、この嘘を多くの人が信じました。このような「ニセ科学」が広まってしまうのは、水の理論的取り扱いの難しさが取り違えられたこともあるのでしょう。
実は、生物の細胞を考える場合も、これまでの研究では、「細胞は水のなかにある」で終わりです。まるで、水の部分は何もない白紙のように思われています。例えば水が小さなパチンコ玉の集まりと想像してください。細胞が安定した形を保つことができるのは、細胞膜の内外にパチンコ玉がつまって壁に力を加えているからです。細胞膜と水の間には、力学的な関係もあるのです。
それだけではありません。水は、複数の分子の立体構造を変形させます。生物の水には塩分が含まれて、ある濃度になると、アクチンという細胞を構成するタンパク質が螺旋状にならびます。これは共有結合といった化学的な作用ではなく、水がある程度乱雑になりたいという性質(エントロピーの増加)から、物理的に安定な状態になるからです。
筋肉の収縮と水との関係
このように水について考えることで、例えば筋肉の収縮のメカニズムを説明できる可能性があります。筋肉の収縮で重要なのは、いかにして筋肉が動くのかを理解することです。そのためには、生物の組織を分子レベルで考え、分子間の力学的な関係を解明することが必要です。このような研究を行うことも「生物物理学」です。生物の構造や機能は明らかになってきましたが、それですべてがわかったとは言えません。問題はどのようにして機能が実行されるかです。生物物理学は、これらの問題を明らかにします。
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九州工業大学 情報工学部 物理情報工学科 准教授 入佐 正幸 先生
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