流れのカオス~単純なルールで複雑をつくる

流れのカオス~単純なルールで複雑をつくる

カオスにすれば異なる物質がよく混ざる

ペットボトル内に隙間なく満たされた2種類の液体を混ぜるにはどうしたらよいでしょう? 実はペットボトルを両手で持ち回転させながら、持っている人自身も(フィギュアスケーターの様に)くるくると回ると驚くほどよく液体同士が混ざります。容器の回転という単純な運動からは想像できないほど複雑な現象が生み出されるのです。これは流体の運動が「カオス」になる性質を生かしています。カオスは「混沌(こんとん)」を意味する言葉です。

流体運動を予測できないカオス

それでは、なぜ流体の運動がカオスになるのでしょう? 流体現象はニュートンの運動の法則に支配されます。これらに基づき導かれた方程式を解けば、未来の運動を予測できそうに思われますが、実は一般にはその解が求まらないのです。これは、方程式の中に未知数同士の乗算が含まれていることが原因です。このように未知数同士の乗算が含まれる式を、そうではない線形方程式に対して、非線形方程式と呼びます。非線形のシステムでは、しばしばカオスが起こります。このとき、初期値を少し変えただけで未来が大きく変わるのです。カオスのこの予測不可能性をバタフライ効果と呼ぶこともあります。つまり、流体のカオスが起こると、流体のある位置にある物質が数秒後にどこにいるかを予測することは不可能です。この性質を生かして冒頭の液体の混合を達成します。

生活を豊かにするための基礎

私たちの周りには、さまざまな流体現象があります。例えば空気の流れである気象現象の場合、乱流つまりカオスのせいでバタフライ効果が起こり、どんなに高性能のスパコンを使っても天気予報を難しくします。また、車や航空機周りの流れでも乱流がその予測や制御を難しくします。一方で、液体をいかに混ぜるかという研究は、エンジン内での燃料の適切な混合や、食品や化粧品などの素材製造にも使われています。カオスはモノ造りには厄介ものにも思えますが、うまく付き合えば暮らしを豊かにするための基礎技術にもなっているのです。

参考資料

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大阪大学 基礎工学部 システム科学科 機械科学コース 教授 後藤 晋 先生

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