「浅草」と聞いて浮かぶイメージが文学作品を読み解くヒントに
社会背景や時代から文学を論じる
文学研究には、さまざまな方法論や視点があります。ひとつひとつの表現や言葉に立ち止まり、深く理解していくことを大切にするのが、文学研究の第一歩です。なかにはストーリーや登場人物のキャラクターなどを論じる方法もありますが、ここでは、近現代日本文学をテーマに、作品がなぜその時代に書かれたのか、なぜその時代の読者に読まれたのかを、文学作品を社会や時代との関係でとらえる方法を紹介します。
現在の問題に共通するものが見つかる
当時の社会背景などをしっかり調べたうえで作品を読むと、その作品だけが単体で生み出されて成立しているのではなく、作者が当時の社会や時代から吸収し、影響を受けたことがわかります。いわば、影響関係の網の目のなかで生み出されたものであるということが、重要な視点となります。そうやって読み解くと、百年前に書かれた作品も、つい最近書かれた作品も、どこか自分自身にリンクさせるなにかしらの問題点が見つかるはずです。掘り起こしていく作業は、言葉に対する感受性を養うことにつながります。
作品の舞台となる場所のイメージを共有
例えば、1929年に発表された江戸川乱歩の短編「押絵と旅する男」では、作品の舞台となっている東京の浅草という場所が、大変重要な意味を持っています。研究では、書かれた当時や語られている時間軸のなかでの浅草という場の意味を丹念に調べます。また、作者自身が浅草をどのように見ていたか、ほかの作品から知ることもできるし、当時の新聞や雑誌も資料として役立つものです。私たちが抱いている、外国人観光客の多い浅草のイメージと、当時の浅草が持つ、一種猥雑な雰囲気を把握して作品を読むと、より理解が深まるでしょう。現在、「オタク」と呼ばれるアニメやゲーム、アイドルといった対象に関心を持つ人たちは、押絵という平面世界の少女に心を奪われている主人公と重なります。昔も今も人間にとって共通する傾向があるということがわかってきます。
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山口大学 人文学部 人文学科 日本・中国言語文学コース 講師 中元 さおり 先生
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