若者の心をつかんだ、京アニ作品で描かれる「居場所」とは
京アニ作品が描いた居場所
2019年、京都府にある京都アニメーション社のスタジオが放火され、多くの関係者が命を失いました。事件を悼む人たちが連日献花に訪れましたが、その中には多くの外国人も含まれていました。
同社の作品でしばしば主題になるのは「居場所」です。一般的なアニメのように、戦闘や三角関係といったドラマチックな展開は抑えられ、学校やサークルなどを舞台とした何気ない日常を送る物語が中心です。中国や台湾、韓国といった東アジアの若者たちもこうした「居場所」に強く引かれていましたが、それは彼らが抱える「孤独」の裏返しであるといえます。
経済的自立と引き換えの孤独
ドイツの社会学者テンニースは、地縁や血縁などで人々が結びつく共同体を「ゲマインシャフト」、企業のようにある目的を実現するためにつくられる共同体を「ゲゼルシャフト」としました。現在、東アジアの国々は経済的に豊かになりましたが、その代償としてゲマインシャフト、従来あった親戚や近所とのつながりは薄れています。核家族化が進み、子どものために少しでもお金を残そうと両親ともに働きに出ますが、そのことが理解できずに「親に見捨てられた」「家庭に居場所がない」と感じる子どもは少なくありません。
自分はここにいても良い
こうした子ども時代を過ごした若者にとって、同社の作品は自らを一時的に逃避させ、救済する場所になりました。放課後の部室でだらだらと過ごしたり、協力して学園祭の準備をしたりと、劇的な展開こそ多くありませんが、境遇や趣味が共通した同年代の若者たちが互いの存在を承認し合い、「自分はここにいても良いんだ」と安心できる共同体が描かれているからです。
物語の本質やその背景にあるクリエイターの精神性を読み解くことは文学研究の特色です。これは、アニメや漫画、映画などのサブカルチャー研究にもあてはまります。時にはそこにグローバルな視点を加えて細かく分析することで、その作品の価値を広める役割を果たしています。
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京都橘大学 文学部 日本語日本文学科 教授 野村 幸一郎 先生
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