ミステリー小説は時代の鏡

ミステリー小説は時代の鏡

日本のミステリー研究は始まったばかり

夏目漱石など純文学の作家については、これまで多くの学者によって研究が進められてきました。しかし、日本のミステリー文学については、これまで積極的に研究が行われてきませんでした。
日本のミステリー小説は、1987年に京都大学推理小説研究会出身の綾辻行人が、本格推理小説『十角館の殺人』でデビューしたのを境に、大きく変わったと言われています。以来、80年代後半から90年代前半にかけて、同じサークル出身の新人作家が次々に登場し、さらに94年にデビューした京極夏彦の『姑獲鳥の夏』が、商業的に成功を収めたことで、本格ミステリーの出版部数は飛躍的に増え、注目を集めるようになりました。

新本格ミステリー登場!

江戸川乱歩や横溝正史を先達とする本格ミステリーは、探偵が知的に謎解きをするスタイルで、戦前に大ブームを巻き起こしました。ところが、戦後になって社会派ミステリー作家の松本清張が登場したことで、ミステリー小説はトリックよりも、犯人が犯罪に手を染めた動機や社会的背景が重視され、文学の一表現と見なされるようになります。しかし、綾辻行人のデビューをきっかけに、「もう一度、本格ミステリーに戻ろう」という動きが出てきました。こうした新しい世代が生み出す本格ミステリーを、「新本格ミステリー」と呼びます。

時代背景がわかるのも魅力

なぜ、ミステリーがこれほどブームになったのでしょう。その理由は、ミステリーの歴史を振り返ることで理解できます。そもそもミステリーは、現実社会と距離をおいた世界の中で、物語をゲーム感覚で楽しませてきました。加えて、その作品の中に描かれた時代背景やトリックからは、その時代の空気感や社会状況、さらには当時の人々の感性までをもうかがい知ることができます。かつては、そうした役割を純文学が担っていましたが、現在ではむしろ、ミステリーを読んだ方がわかると考えられているのです。

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北海道大学 文学部 人文科学科 准教授 押野 武志 先生

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文学

メッセージ

高校時代、体育会系だった私は、硬式野球部で甲子園をめざしていました。しかし進学の際、理系か文系かで迷った結果、「人生とは何かを考えたい」と文学部を選び、ここまできたのです。出発点は自分が興味を抱いたものでしたが、1980年代に近代的な価値観を引っくり返すポストモダンの思想が流行したことで、自分の考え方の狭さを知りました。それは、さまざまな表現に触れ、感性を広げることができたからです。きっかけは人それぞれですが、自分と違う考え方や感性を発見する喜びを知ってほしいですね。

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。