文学や歴史学とは異なる視点で文化を考える

偽文書(ぎもんじょ)も大事な分析材料
源平合戦で有名な源義経が最期を遂げたのは、岩手県の平泉でした。そのような背景もあって、東北地方には、義経にまつわる伝説がたくさんあります。例えば、逃亡する義経に粟(あわ)などの食べ物を貸したという借用書が、東北地方各地に残されています。
しかし、これらの文献を検討してみると、江戸時代に作られたものと見なされます。歴史学の研究であれば、この借用書は歴史的な裏付けが取れない文書として、分析対象から外されてしまうでしょう。しかし民俗学では、「なぜこうした文書を作成する必要があったのか」、あるいは「こうした文書は、地域社会の中でどのような意味を持っていたのか」という観点に立って分析を進めていきます。
義経伝説が商品の価値を高める
現在義経の借用書を持っている家の多くは、江戸時代、名主などを務めた地域の有力農民や老舗(しにせ)などでした。例えば、福島県の老舗菓子店は、この借用状に基づき、自社製品に歴史があることを説いています。
こうした史資料を積極的に取り上げ、分析を加えて意味付けていくことは、庶民文化史を明らかにする民俗学という学問が担う大きな役割の一つです。
声と演(おこな)いの文化
日本民俗学を創始した柳田国男は、文字を読み書きできない庶民にも、さまざまな文化が生まれ、これまで伝えられてきた点に注目しました。つまり、庶民文化にも長い歴史的蓄積があると考えたのです。具体例を挙げれば、文字を読めなかった庶民は、昔話や伝説、語り物文芸、民俗芸能や祭礼の山車などから文芸を享受していました。このことは、歴史をさかのぼれば、琵琶法師の語り芸と関わる『平家物語』や歌舞伎などの古典芸能ともつながりを持ちます。
民俗学では、こうした「声やパフォーマンスを伴う文化」にも着目します。地域で伝えられてきた芸能やその土地に伝わる昔話など、文字に記録されにくい文化も民俗学では研究していくのです。
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盛岡大学文学部 日本文学科 教授佐藤 優 先生
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