中世に転生したら肉が食べられなくなる件
なぜ肉食は禁止された?
もし日本の中世に転生したら、あなたは肉を食べることはできるでしょうか?
縄文時代はもちろん、その後も肉は食べられていました。しかし、3世紀ごろの『魏志倭人伝』には、「倭人は近親者の喪に服す際には十日間肉食を絶つ」と記されています。願掛けのような禁欲の考えから、肉食を我慢したのでしょう。その後、仏教の伝来により殺生は罪であるという教えが広まり、それまでの願掛け的な禁欲の習慣と融合することで肉食は罪悪、タブーだという考え方が強まりました。
野生動物ならいい?
中世では貴族のような高い身分になるほど、肉を口にしなくなりました。タブーを避ける禁欲的なふるまいをして見せることで、身分の高貴さを示そうとしたのだと考えられます。古代から、牛や馬などの家畜は大事な労働力であり、人間の生まれ変わりだという考えもあったため、四つ足の動物は特に食用が避けられていました。ところが、狩猟で獲った野生動物についてはタブーが緩かったようです。武士の多くは鹿を食べましたし、貴族も雉などの野鳥は口にしました。魚になるとさらに緩く、長い間多くの人々に食べられてきました。生き物の種類によってタブーに強弱があり、実際にはさまざまな肉が食べられていたと考えられます。
薬として肉を食べる?
鎌倉時代の武士と僧侶との問答集では、武士が「宴会の膳に肉を出すのは問題ないでしょうか」という質問をしています。もちろん、僧侶の答えは「駄目だとわかっているなら、やめなさい」ですが、それでも繰り返し質問した記録が残っているのは、中世の武士たちにとって、肉は重要な食材だったからでしょう。肉を食べないと、当然栄養は不足します。中世の人たちも、肉に栄養があることは理解していたようです。そのため、貴族も体調が悪くなった時は、薬として肉を食べていました。これは「薬食い」と呼ばれ、しだいに庶民にも広まりました。江戸時代には体調を崩しやすい冬に多く行われたことから、俳句では「薬食い」が冬の季語となっています。
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先生情報 / 大学情報
上智大学 文学部 史学科 教授 中澤 克昭 先生
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