口蹄疫問題が投げかけた「リスク管理」の課題

口蹄疫問題が投げかけた「リスク管理」の課題

口蹄疫は人命に関わる伝染病ではない

口蹄疫(こうていえき)問題を例に、リスク管理について考えてみましょう。2010年4月、宮崎県で口蹄疫が発生しました。連日の報道により、口蹄疫は家畜や人間の命に関わる恐ろしい伝染病だと思っている人が少なくないかもしれません。しかし実際には、口蹄疫は家畜の伝染病としては最も強い感染力を持つものの、人間に感染することはほとんどありません。成長した家畜の死亡率は数パーセントであり、感染した牛や豚の肉を食べたことによる人間への健康被害もありません。ですが、数十万頭もの家畜が殺処分されました。それはなぜでしょうか。

経済被害の大きさが殺処分の理由

口蹄疫は家畜間の感染力が非常に強く、子牛や子豚では致死率が高いです。感染すると食欲がなくなって蹄(ひづめ)の付け根などにできた水泡のために歩行が困難になり、採取できる乳や食肉の量が減少するため、畜産業者は大きな打撃を受けます。また、日本は口蹄疫が蔓延している外国からの食肉の輸入を禁止しています。そのため、自国に口蹄疫が広がってしまうと、それらの国からの輸入に対してNOとは言えなくなります。格安の輸入食肉が国内に大量に流通すれば、国内の畜産業者は大打撃を受けます。口蹄疫が恐れられているのは、こういった経済被害が大きいからです。このため感染した家畜が発見されれば早急に殺処分し、ウイルスを根絶する必要があるのです。

リスク波及を最小限に抑える体制づくりを

宮崎県のケースでは、ブランド牛の種牛の殺処分をめぐる問題や、農家や獣医の精神的ストレス、予想以上の殺処分数で埋却地が足りなくなるなど、想定外の事態が続き、災害と呼ぶべき状況でした。その対策は一筋縄ではいきません。現代では災害による二次的・三次的な経済的・社会的打撃が深刻になってきます。何か起こったとき、政府の指示だけでは状況は解決しません。さまざまなリスク波及を予想かつ評価し、自治体や関係機関、経済・社会学的視点を持つ専門家が、連携して有事に備える姿勢が求められます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

関西大学 社会安全学部 安全マネジメント学科 教授 永松 伸吾 先生

関西大学 社会安全学部 安全マネジメント学科 教授 永松 伸吾 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

社会安全学

先生が目指すSDGs

メッセージ

学問の世界は、近年まで分野が細分化され、それぞれを突き詰めて研究するものとされてきました。しかし21世紀を迎えて社会問題が複雑化する現在、一つひとつの分野だけで解決のヒントをつかむのは難しくなってきました。今の世の中に必要なのは、高いレベルの専門性を維持しながら、幅広い分野の知識を統合できる能力です。過去から積み残された課題を解決し、次の世代に残さないためにも今このときを生きる者の責任は重大なのです。安全・安心な未来のために、意欲あるあなたに期待しています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

関西大学に関心を持ったあなたは

1886年、「関西法律学校」として開学した関西大学。商都・大阪に立地する大学らしく、学理と実際との調和を意味する「学の実化」を教育理念に掲げています。2010年4月には、JR高槻駅前の高槻ミューズキャンパスと、大阪第2の政令指定都市である堺市の堺キャンパスと、2つの都市型キャンパスを開設。安全・安心をデザインできる社会貢献型の人材を育成する「社会安全学部<高槻ミューズキャンパス>」、スポーツと健康、福祉と健康を総合的に学ぶ「人間健康学部<堺キャンパス>」を開設しました。