いろいろな角度から見れば、「まだ知られていない歴史」はある
「歴史の教科書」は疑ってもいい
フランス革命前後の新聞等の中で、「王」と「共和政」という2つの言葉が使われた頻度を、現代のデジタル技術で統計的にグラフ化したものがあります。高校の教科書では、この時期について「王のいない共和政は、段階的に盛り上がり実現した」というイメージで書かれています。しかしグラフで見ると、「共和政」という言葉は実際に共和政になる段階で「王」と入れ替わっており、ほぼゼロの状態から急激に使われ始めたことがわかります。教科書のイメージと全く違うことが証明されたのです。こうした「デジタル人文学」は、新しい研究手法の1つとなっています。
地中海からの旅人が江戸幕府にアドバイス?
19世紀に地中海周辺から3つの文化圏を行き来した2人の旅人がいました。彼らの報告書や伝記から2人の人生を並べてみると、南米の歴史、ヨーロッパの歴史、イスラム世界の歴史、さらに幕末の日本の歴史にもつながります。また、彼らによって時代の思想や考え方が地域間で交流している可能性も見えてきます。2人とも元は通訳者で、後に外交官や官僚に出世していますが、歴史上の有名な人物ではありません。このように「個人の歴史」から広く関連させて「世界の動き」をとらえることもできるのです。
歴史は「過去を知る」だけではない
古い時代からの地域間のつながりや交流を、国ごとや特定の地域だけでなく、世界全体としてとらえようとする「グローバルヒストリー」など、従来にはなかった新しい見方や切り口で歴史を読み解くような動きが進んでいます。研究の手法では、統計的なことやグローバルな見方をする一方で、先ほどの旅人のような、ある人物の生涯や思想から見る、つまり「大きな視点と小さな視点」の間を行ったり来たりしながら考えていきます。
歴史で研究しているのは、単に「過去のこと」ではありません。身近な現代の出来事の歴史的経路をたどることで「今、ここ、これ」がなぜあるのかも、より深く理解できるのです。
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先生情報 / 大学情報
学習院大学 文学部 史学科 教授 工藤 晶人 先生
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