パソコンの起動が一瞬になる? スピントロニクスの世界
スピントロニクスとは
電子はマイナスの電荷を持つ粒子で、電子が動きまわることで電流が生じます。電子回路の半導体は、この電荷の流れを制御することで機能が成り立っています。これは「電子工学」の技術です。その一方で、電子は常に自転(スピン)して磁気を生み出す特性もあり、磁性材料として様々な場面で応用されています。これは「磁気工学」の技術です。
この2つの技術は、今までは別々に利用されてきました。しかし「電荷」も「スピン」も同じ電子の働きなので、両方の特性を同時に利用するための研究が進んでいます。それが「スピントロニクス」といわれる技術です。
ハーフメタルがスピントロニクスに革命をもたらす
スピントロニクスを飛躍させる新素材といわれているのが、金属と半導体の性質を併せ持った「ハーフメタル」という磁性材料です。金属磁性体は複数の素材を合わせると磁気構造などが変化し、まったく新しい特性を持つようになります。ハーフメタルの性質を持った磁性材料を開発しようと、世界中で研究が進んでいます。その一つが、マンガンやコバルトなどの磁性体からできた「ホイスラー合金」です。今までハーフメタルは理論上の存在でしたが、近年、ホイスラー合金の電子状態観測実験から、初めてハーフメタルの特性を持つことを確認できました。これにより、ほかの候補材料の電子状態も解析しやすくなり、研究が加速するでしょう。
スピントロニクスが未来の生活を豊かに
デバイスを生かすも殺すも材料次第です。ハーフメタルを使ったスピントロニクスデバイスが実用化されれば、パソコンの記録媒体は大幅な高性能化や小型化、省電力化が期待できます。例えば不揮発性メモリに使えばパソコンは一瞬で立ち上がるようになるでしょうし、記憶装置の容量も格段に大きくなるでしょう。医療分野では、生体センサなどに応用できるかもしれません。また、微弱な地磁気を検出する地震予知センサへの応用も期待されます。ハーフメタルによるスピントロニクスが、私たちの生活を大きく変える可能性があるのです。
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先生情報 / 大学情報
東北大学 工学部 材料科学総合学科(金属材料研究所) 教授 梅津 理恵 先生
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