光合成の仕組みでがん細胞を倒そう
身近な有機化合物「ポルフィリン」
環状構造の有機化合物であるポルフィリンは、人体であれば血液中のヘム中に存在している赤色の色素です。また、ポルフィリンを一電子還元したものはクロリンと呼ばれており、植物の葉のクロロフィルに含まれている緑色の色素です。光合成において、光を集める役割をしています。ポルフィリン骨格をもつ物質は、生体内でさまざまな役割を果たしています。また、例えばポルフィリンの類似化合物のフタロシアニンは青色の色素であることから、デニムの着色や新幹線の塗装に使われることもあります。
細胞を死滅させる活性酸素
ポルフィリンは、植物だと光合成、人体では筋肉を動かすエネルギーを生み出します。そのとき、活性酸素も発生します。活性酸素には毒性があり細胞を壊しますが、その使い方を工夫すれば、がん細胞だけを死滅させることもできます。ポルフィリンと人体の親和性は高く、その点では薬に向いています。ただ、活性酸素を発生させるには光合成と同様、光が必要になります。言い換えれば光が当たる場所のがん細胞しか死滅させることができません。使いやすいのは皮膚がんの治療で、皮膚がん患者の多いヨーロッパでは既に実用化されています。
深部のがんに届かせるには
通常、光が届くのは表皮のみ、深さにして5ミリ程度です。しかし、波長が長い近赤外の光であれば、2~3センチ程度の深さまで届かせることができます。光を当てる場合は、正常な細胞を死滅させてしまわないように、放射線治療のようにさまざまな角度から弱い光を当てるか、レンズで集光するという形を取ることになります。一方、体内に入れるポルフィリン類は、がん細胞の特徴である細胞分裂が盛んなところに集まるため、光増感剤(光を当てることで活性酸素を生み出す物質)としての機能を持ち、がん細胞内に浸透しやすい性質を持っていることが求められます。ポルフィリン類の特徴を生かし、新しい化合物を創製できれば、副作用の少ない抗がん剤になる可能性があることから、研究が進められています。
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島根大学 総合理工学部 物質化学科 准教授 池上 崇久 先生
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