注射も飲み薬もいらない! 薬効成分を患部に運ぶ塗り薬の開発

注射も飲み薬もいらない! 薬効成分を患部に運ぶ塗り薬の開発

塗り薬が注射代わりになる?

小さな子どもや、飲み込む機能が低下している高齢者にとって、痛い注射を打たれたり、飲みにくい薬を処方されたりするのは、かなりの苦痛でしょう。また、発展途上国においては、注射針の使い回しによる感染症のリスクや投与の際の医療従事者の確保などの問題もあります。そこで現在、さまざまな医薬品を、患部の皮膚に塗るだけで効く「経皮薬(塗り薬)」の研究が進められています。経皮薬には、皮膚表面を治療する目的のものと、皮膚を介した全身への治療を目的とするものがあります。

皮膚のバリア機能が薬の浸透を阻害

医薬品を経皮薬にしにくい最大の要因は、皮膚のバリア機能です。皮膚は、角質細胞と脂質層とで構成される角層に覆われており、固いタンパク質でできている角質細胞は、物質をほとんど通しません。脂質層は油とよくなじむので、油になじみやすい油状基剤に溶けた分子量の小さい薬は皮膚浸透できますが、油になじまず、分子量の大きい薬はそのままでは浸透できません。そこで水に溶けやすく、分子量が大きい薬でも患部まで届くように研究されているのが、界面活性剤を応用した「ドラッグデリバリーシステム」です。

X線を使って浸透経路の違いを研究

界面活性剤は1分子の中に、親水基と疎水基の両方を持っているのが特徴です。通常、油と水は混ざりませんが、油の中に界面活性剤を入れると、界面活性剤の分子同士が親水基を内側にして集まります。この内側の親水性の空間に、水に溶けやすい薬を含ませれば、油状基剤に分散したカプセル状の「薬運搬キャリア」ができるのです。キャリアの形は球状だけでなく、親水基と疎水基のバランスや、溶かすものの違いによって形状が変わります。キャリアの形や大きさなどにより、皮膚へ浸透する深さや、キャリアに包んだ薬物が、いつどのように放出されるか、といった皮膚への浸透メカニズムが異なることが考えられます。そのため、X線を使って、キャリアの構造の違いによる経皮浸透メカニズムを調べる研究が行われています。

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崇城大学 工学部 ナノサイエンス学科 准教授 櫻木 美菜 先生

崇城大学 工学部 ナノサイエンス学科 准教授 櫻木 美菜 先生

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物理化学、生物化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

あなたは今、興味を持っている学問分野はありますか? 今高校で取り組んでいる勉強は、将来とっても役に立ちます。
私の場合、大学時代の専門は化学でしたが、現在の実験に用いる装置の測定原理は物理、データの解析には数学の知識も必要です。さらに、論文を書くのに文章力、英語の論文には英語力も必要……と、興味がある分野を歩んでいるうち、いろいろな学問がつながっていることがわかりました。学生時代は、自分自身の興味がある分野に一生懸命打ち込んで、一見進みたい分野と関係のなさそうな分野にも積極的に取り組んでほしいです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
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崇城大学に関心を持ったあなたは

崇城(そうじょう)大学は薬学、生物生命、工学、情報、芸術の5学部からなる総合大学です。“世界で活躍できるプロフェッショナルの育成”を目指し、最先端の施設・設備・研究を備え、学生一人ひとりを厳しく育てる実践的な教育プログラムにより、高い就職率や国家資格合格率を維持しています。理系私立大学では全国初の英語を公用語とする学習施設「SILC(シルク)」があり、英語ネイティブ講師による英語教育が成果を上げています。本学の地である熊本から産業界の未来を切り拓く若者を輩出する学舎でありたいと決意しています。