剣道は言葉で「痛み」をコントロールする

剣道は言葉で「痛み」をコントロールする

剣道における「痛み」のイメージ

体育で柔道や剣道の授業を受ける際に、「けがをしそう」と不安に感じたことはありませんか? 特に剣道の場合、竹刀で打ち合うことから痛みのイメージが強く、中学生の約半数が「やりたくない」と答えた調査があります。また、実際に剣道の授業を受けた高校生からも「痛い」という回答がありました。特に未経験者にとっては力の加減や打突の強さの制御がうまくできず、痛みの恐怖を感じてしまう傾向が確認できました。しかし、剣道は防具を装着しているので、打ち方や打つ部位が的確であれば、本来はそこまでの痛みを感じるものではありません。

指導言語が打撃力に与える影響

剣道の稽古中の「痛み」を軽減する方法については、科学的な観点からさまざまな調査が行われています。ここでは指導者が用いる「指導言語」に着目し、その影響をハイスピードカメラや打撃力を測定する特注のセンサーで測定した実験を紹介します。
剣道での指導言語では、例えば面を打つ時に「強く」や「速く」という言葉を用います。ここで「速く」と指導すると、竹刀の振り幅を小さくすることで打撃に速さを出そうとするため、結果として打撃力は弱くなります。また、打ち込みの深さに関しても、「面の位置で止める」「打った後に竹刀の先を前へ進める」といった具体性を持った指導によって力が制限されることがわかっています。これらを踏まえて打撃力の測定調査を行ったところ、指導言語の違いによる打撃力の変化を客観的な数値として測ることができました。

これからの新しい指導の確立に向けて

実験からもわかるように、指導者の使う指導言語によって打撃力のコントロールは可能であり、受け手側の「痛み」は軽減できます。こうした科学的な観点を取り入れた指導言語の調査と指導法の確立は、今後の剣道の指導における競技者の身体的・心理的安全性を高めるために役立てられます。また、剣道のさらなる発展にも生かしていくことができます。

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東海大学 体育学部 武道学科 准教授 天野 聡 先生

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武道学科では、技能の鍛錬だけでなくバイオメカニクスを用いた科学的な視点での研究も行っています。武道を科学の目でとらえることは、自分自身の技術の向上のためにはもちろん、後進の指導のためにも大いに役立ちます。一般企業に就職しても、地域の道場や同好の場で武道を続けることで、その指導に学問の経験を生かしていくことができるでしょう。一般的な競技スポーツに比べ、武道は生涯続けていくことができます。新たな観点から学ぶことで自分を磨き、その能力を生かしていきましょう。

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