剣道と呼ぶのはなぜ? 世界に広まる武道の魅力
剣と刀の違い
考古学的に見ると、剣は両刃で刀は片刃という違いがあります。では、剣道で使う竹刀はどうでしょう。「剣道」という文字から連想して、剣だと思うかもしれません。しかし竹刀は片刃で、刃と棟があります。刀を使っているのに「刀道」という表現をしないのは、竹刀を構えたときには2つの刃が向けられている、という考え方があるためです。ひとつは相手に、もうひとつは自分の恐れや迷いなどに向けられています。剣を重んじる文化は世界中にありますが、剣にこうした精神性を持たせている文化は日本独特といえるでしょう。
「一期一会」と「省略の美」
武道にはほかの日本文化と共通する部分も見られます。例えば茶道には一期一会(いちごいちえ)という考え方があり、茶室の中で主人と客が共有する時間や空間を大切にしています。これは武道でも同様で、将来二度と会わないかもしれない相手に敬意を払い、共有する時間と空間の中で全力を尽くして試合をします。
また、茶道における茶室の床の間は、掛け軸と挿し花という質素なものです。剣道にも鎬(しのぎ)を使った必要最低限の動きで攻撃したり防いだりする「省略の美」があります。一期一会と省略の美は、日本文化における本質ともいえるでしょう。
国際化する武道で必要な姿勢
剣道や柔道などの武道は日本だけでなく世界でも親しまれています。しかし海外に武道を伝えるとき、本質的な部分を理解してもらえないことや、現地の文化との衝突が起こってしまうこともあります。例えば剣道で試合に勝ってガッツポーズをするのはご法度ですが、武道以外の競技スポーツからすれば違和感があるでしょう。特に精神面は、現地の宗教によっては必要ないと見なされることもあります。一方で、「武道の精神を知ることで、自身の信仰心がより強くなる」と好意的に受け入れられた例もあります。
「武道とはこういうものだ」と押し付けるのではなく、海外の現地の文化を理解し思いやる姿勢、またそれでも必要なことは根気よく伝えていく姿勢が、武道の国際化の中で重要なのです。
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先生情報 / 大学情報
明治大学 国際日本学部 国際日本学科 教授 長尾 進 先生
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