運動はなぜ健康にいい? 栄養学が解明する筋肉・脂質の謎
筋肉と遺伝子
栄養学の原点は「人間はなぜ食事をするのか」という問いにあります。そして食事によって蓄えたエネルギーを多く使う筋肉は、栄養学の重要な研究対象です。例えば、長距離走の練習を毎日続けるとタイムが徐々によくなるのは、運動によって筋肉の持久性が高まるからです。また、寝たきりの生活をしていると体が弱るのは、筋肉が萎縮してしまうからです。このように、運動や生活によって筋肉の質が変わることを適応反応といいますが、そこには遺伝子の発現変化が深く関わっています。近年では、遺伝子の発現を調整し、筋肉の性質を変える因子の特定に成功しました。
脂質の質と筋肉の性質
遺伝子発現と同じく、脂質も筋肉の性質の変化に関係しています。脂質はエネルギー源であると同時に、生体膜の構成、情報伝達なども行う物質で、生体内には1,000種類以上あるとされています。たくさんの種類がある理由や個々の働きについては、まだ解明されていないことが多くあります。
筋肉には持久力を生む遅筋と瞬発力を生む速筋がありますが、近年の研究ではそれぞれの筋肉には異なる脂質があること、ある脂質が遅筋の性質にとても重要であることもわかってきました。筋肉を構成する脂質は、その種類の違いにより機能を制御しているのかもしれません。
筋肉の変化と動脈硬化の予防
運動は動脈硬化を予防します。従来では運動すると善玉と悪玉コレステロールのバランスを改善し、動脈硬化を抑えるとされていました。本来、このバランスを変えるには相当強い運動が必要です。ところが実際は、ジョギングなどの軽い運動でも動脈硬化が抑制される例が多くあります。マウスを使ってより詳しく研究してみると、ジョギングなどの運動によって筋肉が遅筋になり、遅筋から分泌される生理活性物質が動脈硬化を抑制する可能性があることがわかってきました。こうした研究がさらに進めば、生理活性物質が分泌されやすい運動メソッドや食事メニューもつくることができ、動脈硬化の抑制に大きく貢献することが期待されます。
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静岡県立大学 食品栄養科学部 栄養生命科学科 教授 三浦 進司 先生
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