合格率は1%以下 八段者を通して考える「剣道」の本質
剣道の最高段位
現代の剣道において、最高段位は八段です。八段審査は毎年2回行われ、全国の名だたる剣士が受審しますが、その合格率は1%以下であり、司法試験より狭き門である点が特徴です。受審資格には「七段受有後10年以上修業し、かつ、年齢46歳以上の者」とあり、1度で合格することはほとんどなく、毎年審査を受ける人も多くいます。また、学生時代・社会人問わず、過去に全国大会で優勝したような人がなかなか合格できず、反対に競技実績のない無名でも合格する人がいます。審査では、主に受審者同士の立ち合いが対象になり、一本に結びつく有効打突などの技術面・競技スキルだけでは測れません。剣を構えた際の「風格」や攻め崩し、良い機会をつくり逃さないことなど、技そのものの「剣風」も評価基準になります。
防御姿勢の分析
学生による競技大会では、相手に打たれないようにする防御姿勢が多く、また防御姿勢が多い方が勝率は高いのですが、八段戦を分析したところ、防御姿勢が少なく、攻撃と防御が一体となった方が勝利する割合が高いことがわかりました。このような攻防一致の剣道とは、構えが崩れることの少ない理想的な剣道であり、多くの人がめざす八段者が実践している剣風の一つになることがいえます。
剣道の成り立ち
戦国時代に相手を殺傷、捕縛する「武術」として発達した剣道は、やがて戦のない江戸時代になると武士が修める「武芸」となり、明治期以降は伝統文化や教育的な要素を持つ「武道」として確立されました。単に勝負に強いことやアスリートとしての能力だけが八段審査の評価対象にならないのは、こうした剣道が持つ歴史や価値観も大きく関係しています。
体育学の中には、武道を専門とする武道学という分野があります。武道学においては八段者の剣道や人格も重要な研究テーマです。立ち合いの内容分析や、審査に合格した八段者へのインタビューといった調査を通して、めざすべき剣道とその価値観を探ると共に、八段合格をめざした修行が人間形成に与える影響についても研究されています。
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東海大学 体育学部 武道学科 准教授 笹木 春光 先生
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