講義No.12583 医学

抗原は認識しない? 新たに発見された自然リンパ球

抗原は認識しない? 新たに発見された自然リンパ球

新たに発見されたリンパ球

体内にはT細胞やB細胞などのリンパ球が存在し、外から入ってきたウイルスや細菌といった病原体(抗原)を認識して、身体を守るために働きます。リンパ球はすでに大方の種類が発見されたと考えられてきましたが、21世紀に入ってから「2型自然リンパ球」(ILC2)という新たなリンパ球が見つかりました。

抗原に反応しない自然リンパ球

ILC2は従来のリンパ球とは異なり、体外から入ってきた抗原を認識する能力を持っていません。にもかかわらず、寄生虫感染に対する防御や、アレルギーの発症に働きます。
花粉症などのアレルギーは、アレルゲン(抗原)が外から入ってくることによって引き起こされます。その一方で、気管支ぜんそくやアトピー性皮膚炎といったアレルギー性疾患では、季節や環境に関係なく1年中症状が出ることがあります。この事実から、アレルギーは抗原認識だけで起こるのではない可能性が考えられていました。こうした原因不明だった病気について、ILC2の分析に期待が寄せられています。ILC2が死んだ細胞が出す成分やホルモンなど体内のさまざまな因子に反応し、症状を引き起こしていることがわかってきたからです。

ILC2は厄介な存在?

ILC2は、アレルギー以外にも肺線維症などのさまざまな病気を誘導していると考えられています。肺線維症は傷を修復するとき過剰にコラーゲンが作られることで、肺が硬くなってしまう病気です。その一方で、ILC2は感染症にかかったときにボロボロになった組織を修復する機能や、寄生虫を体外に押し出す機能も持っています。このようにILC2には身体を守る機能はあるものの、過剰に作用すると病気を誘導してしまうため、働きをコントロールする薬が求められています。
すでに実用化されている抗体製剤という薬を使えば、ILC2をある程度抑制できることがわかっています。しかしとても高価で一般の患者にはなかなか行き渡らないため、より安く汎用性の高いものが作れないか、さらなる研究が始まっています。

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大阪大学 医学部 医学科 教授 茂呂 和世 先生

大阪大学 医学部 医学科 教授 茂呂 和世 先生

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メッセージ

高校までの「勉強」とは異なり大学で取り組む「学問」は、教科書に新しい事実を書き加えていくような作業です。教科書を塗り替えられるような発見は、まず独創的な疑問を持たなければ見つかりません。だからこそ、日常生活の中で「どうして」と考えることを大切にしてほしいです。疑問に感じたことはあなたが興味を持っていることでもあるので、研究テーマとして選んでもきっとやりがいがあります。人と違った視点を持つことも良い研究につながるので、勉強以外のことにも幅広く目を向けて、自分だけの人生を生きてほしいです。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。