奇跡を起こす空間? 現代数学に欠かせない「モジュライ空間」

代数方程式を図形で表わす「代数幾何学」
中学の数学では、xとyを変数とする代数方程式の解が、2次元の平面に描かれる図形(直線や円)として表わされることを学びます。この変数が3つになると、3次元空間に描かれる曲面などの図形として表わせます。例えば変数が100個の代数方程式なら、概念上の「100次元の空間の中の図形」を考えます。そのようにして定まる図形のかたちを調べる数学の分野を「代数幾何学」と言います。
多様性や関係性を表す「モジュライ空間」
代数幾何学などの現代数学で扱われる空間の一つに「モジュライ空間」があります。モジュライ空間とは、「ある定義を満たすものを集め、それらがお互いに違っている度合いやその多様性をかたちにした空間」のことです。例えば「三角形のモジュライ空間」は、辺の長さや角度が異なる三角形の一つ一つを「点」として捉え、その点の集まりを「違っている度合い」に応じてつなげることで得られます。この空間のかたちや構造が、三角形の多様性のあり方を表しています。
例えば、正三角形と円の「定義」は全く違いますが、「多様性」という観点では、正三角形では一辺の長さ、円は半径と、それぞれの中で違いを生む要素が一つであることは共通しています。そのため、正三角形のモジュライ空間と円のモジュライ空間は、全く同じ構造になります。
現代数学に欠かせない「橋渡し役」
全く異なる2つの対象でも、そのモジュライ空間が同じ構造であれば、一方でわかったことを他方に応用することも可能であり、このアプローチによって難問が奇跡的に解けることもあります。そのため、モジュライ空間は異なる数学の分野や対象どうしをつなぐ「橋渡し役」として活躍し、それによって未解決の数学上の問題が解けたり、物理学を支える新しい数学モデルが生まれたりする可能性があります。
ほかにも「有限体」と呼ばれる特殊な数の体系の中で考えるモジュライ空間(モジュラー曲線)の研究が、情報通信技術の基礎である「符号理論」の発展に関わっています。
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