講義No.12608 獣医学

術後の工夫も重要な動物の整形外科

術後の工夫も重要な動物の整形外科

手術の後が大事

動物の整形外科では、手術だけでなく、手術後の取り組みも重要です。術後の管理によって治療の効果が大きく左右されるからです。例えば犬の生まれつきの肘関節脱臼の場合、脱臼した骨をつなげる外科手術を行うことがありますが、脱臼が再発する可能性が高いです。どうすれば再発を防ぎ手術の効果を最大化できるのか、術後の処置に注目した研究が行われています。その手法のひとつが、肘関節を支える装具を使うことです。

脱臼の再発を防ぐには?

生まれつき肘関節が脱臼していた珍しい症例に、手術後装具を使用した事例があります。術後に肘の骨が再び離れ始めたため、装具を使って肘を支えるのです。肘が伸びた姿勢のまま骨を一定の期間固定しておけば、離れやすい関節部分がうまく固まるはずです。装具を装着してしばらくすると、手術前には這って歩くことしかできなかった犬が走り回れるほど元気になりました。
先天性の肘関節脱臼のような珍しい症例は、治療法がまだ定まっていません。装具の有無による経過の違いなどを分析し客観的に効果を実証できれば、治療法の確立につながるでしょう。

動物の動きを正確に知る

現在、動物の動きが正常か異常かは目で見て判断することが主流です。しかし見た目だけでは治療が効果的なのかを判断するのは難しいです。経過を客観的に判断するためにも、基準となる健康な犬の動きを正確に知る必要があります。そこで健康な犬の歩き方を探る研究が進められています。センサーの付いた床を歩かせ、足にかかっている力やその方向などを計測します。この研究は欧米では飼育頭数の多い大型犬を対象に行われていました。
しかし日本で主流の小型犬についてはデータが不足しています。犬は体格差が大きく、足や骨の形も千差万別です。そのため歩き方にも犬種ごとに違いがあるかもしれません。まずはビーグル犬を対象に同様の実験が行われた結果、足にかかる力に大型犬と共通した特徴があることがわかってきました。ほかの犬種にはどのような特徴が見られるのか、さらなる研究が必要です。

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先生情報 / 大学情報

麻布大学 獣医学部 獣医保健看護学科 講師 一戸 登夢 先生

麻布大学 獣医学部 獣医保健看護学科 講師 一戸 登夢 先生

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獣医保健看護学

先生が目指すSDGs

メッセージ

愛玩動物看護師は民間の資格でしたが、法改正によって新たに国家資格になりました。改正前には難しかった、より専門性を有する看護業務にも携わることが可能です。病気に注目する獣医師の視点のほかに、飼い主や動物の状態を理解した愛玩動物看護師の視点が加われば、よりよい治療を提供できるはずです。そのためには考える力と発信する力が必要だと思います。動物が好きであることはもちろんですが、飼い主や獣医師とコミュニケーションをとれる必要があります。物事を自分で考え、それを言葉で伝える練習をしておくと役立つと思います。

麻布大学に関心を持ったあなたは

はじまりは1890年に開設した東京獣医講習所でした。
まだ栄養状態が豊かでなかったこの国の、人の生活を豊かにするため、畜産の発展に寄与するため獣医師の養成をはじめました。それから約130年の時を経て、人の社会と動物のかかわりは深くなり、複雑になり、生きものすべてが新しいバランスで循環する「いのちのあしたのあり方」が求められています。
これが私たちの目指す「地球共生系」です。
最先端の研究と確かな実践力で、「人と動物と環境」に向き合い、地球のあしたをつくる。これが私たち麻布大学です。