1塩基の変化を見逃すな! ピンポイントでがん細胞を倒す

1塩基の変化を見逃すな! ピンポイントでがん細胞を倒す

がん細胞を狙い撃ち

がんの克服は人類共通のテーマであるといえます。がんの原因は遺伝子についた傷で、DNAのたった1塩基が変異するだけでも細胞ががん化することがあります。がんの治療に使われる一般的な抗がん剤は、がん細胞が増殖しないように細胞分裂を止めるものですが、周りの細胞にも影響を及ぼすために副作用が避けられません。そこで、がん細胞だけを狙ってたたく「分子標的薬」の一つとして、たった1塩基の変異を識別する核酸をベースとした薬の研究が進められています。

がん細胞の変異したRNAに結合

この薬の仕組みは、がん細胞のRNAに15塩基程度の相補的な人工の核酸をくっつけてタンパク質合成ができないようにし、がん細胞を死に至らしめるというものです。人工核酸に、変異した塩基と化学反応を起こすような物質を結合させておくことで、変異した塩基を識別します。例えば、正常な細胞のGGUという塩基の並びがGUUと変異しているのであれば、Gには反応せずUに反応する物質Rをくっつけて、変異した塩基と共有結合させるのです。人工核酸の相補的な塩基対の水素結合だけでは、タンパク質を合成するリボソームにはじきとばされてしまいますが、共有結合を作ることでリボソームを退け、タンパク質合成を阻害できます。

光化学反応を利用

もっとも、DNAやRNAなどの核酸は非常に安定した化合物なので、そのままでは人工核酸のR部分と反応しません。かといってRの反応性を高めると、がん細胞のRNAに到達する前にほかの細胞内物質と反応してしまいます。そこで、細胞に人工核酸を入れたあとに光を照射し、光のエネルギーで反応を起こす光化学反応を利用して変異したRNAと共有結合させます。
人工核酸とがん細胞のRNAをより効果的に結合させるために、Rとして最適な物質は何か、Rをくっつける塩基は標的の塩基と相補的なものがよいのか否か、塩基のどの位置につけるのがもっとも反応を起こしやすいかということが、模索されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

京都工芸繊維大学 工芸科学部 物質・材料科学域 応用化学課程 教授 小堀 哲生 先生

京都工芸繊維大学 工芸科学部 物質・材料科学域 応用化学課程 教授 小堀 哲生 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

有機合成化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は応用化学課程に所属している先生で、有機合成と遺伝子の化学を専門に研究しています。自分の研究内容を紹介すると、よく「薬学部みたいですね」と言われます。薬学部でなくても、薬剤を作る研究はできるのです。がん治療の研究にしても、いろいろな分野の人が協力して、がんを克服するために立ち向かっています。つまり、どのような分野に進んでも、自分のやりたいことへアプローチする方法はあるのです。そのことを知っておいてほしいですし、どんな分野でどんなことがやれるのか、積極的に調べてみてほしいです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

京都工芸繊維大学に関心を持ったあなたは

歴史都市京都にあって、本学は、伝統文化や伝統産業との深い結びつきを背景に、工芸学と繊維学にかかわる幅広い分野で常に先端科学の学理を探求し、「人に優しい実学」 を志向する教育研究によって、広く産業界や社会に貢献してきました。さらに、本学は、長い歴史の中で培った学問的蓄積の上に、感性を重視した人間性の涵養、自然環境との共生、芸術的創造性との協働などを特に意識した「新しい実学」を開拓し、伝統と先端が織りなす文化を創出する「感性豊かな国際的工科大学」を目指します。