同位体分析から見える、発電だけではない原子力の世界
同位体とはなに?
同じ元素(原子番号が同じ)でも、質量が異なるものを同位体と言います。高校の化学の授業では、同じ元素の同位体では、化学的性質はほとんど変わりがないと習い、同じと考えている人も多いと思います。実際、その違いを化学平衡の平衡定数の数値で表現した場合、全く同じ状態を1とすると、1.001だったり、1.0001ぐらいでしかない場合がほとんどで、通常なら無視できる差と言っていいでしょう。しかし、「ほとんど変わらない=同じ」ではないのです。
原子番号の後に続く数字が違えば、働きも違う
原子力の世界では、こうしたわずかな差であっても、別のものとしてとらえて分析する必要があります。例えば、ウランは複数の同位体を持ち、その性質はそれぞれ異なっています。燃料として使えるのは、ウラン235だけです。用途によっては、この同位体だけを分離し、増やすことでより効率よく使用することができます。働きの違う同位体を持つ元素はほかにもたくさんあって、原子力発電に使うものとしては、制御棒に入れるホウ素や水素イオン指数(pH)を調整するためのリチウムなどが挙げられます。
医療現場などでも応用できる同位体分離の技術
同位体を分けて特定の部分だけ使用することは、核医学と呼ばれる医療の世界でも行われています。一例を挙げると、モリブデン98は、濃縮して中性子を当てることで、モリブデン99に変わります。モリブデン99は崩壊させると、テクネチウム99mになります。これを注射で人体に入れて、撮影することで、がん診断に使われています。
現在は海外の原子炉でウランを核分裂させてモリブデンを取り出したものの輸入が主流です。高濃縮ウランが核兵器の材料になるため、国内では作れないため輸入に頼っているのですが、同位体分離の技術を活用すれば、国内で製造することも可能になります。
医療以外にも、遺跡発掘現場で出土品から時代や生産地を特定するのに使われるなど、同位体の分離や分析は、私たちの生活に役立っているのです。
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長岡技術科学大学 工学研究科 量子・原子力統合工学分野 教授 鈴木 達也 先生
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