錯イオンが生体内ではたらく仕組みを学び 応用する化学
生命がもつ錯イオン
動植物にはさまざまな「金属錯体」と呼ばれる物質が含まれています。金属錯体とは金属イオンに非金属原子・分子が結合した物質の総称で、高校では錯イオンとしてならいます。金属錯体は美しい色を呈することが特徴の一つです。例えば血液の赤色はヘモグロビンに由来しますが、そのタンパク質にはヘムという鉄を結合した金属錯体が含まれており、酸素運搬機能に重要な役割をはたしています。また、植物の光合成を担うタンパク質にはマグネシウムが結合した金属錯体からなるクロロフィルが含まれています。他にも、金属錯体を含むタンパク質が数多く存在し、生命維持に必要な化学物質やエネルギーをつくり出しています。
生体内の金属錯体の機能は自然の驚異
生体内の金属錯体は人類がもつ化学の常識からすると驚くべき機能を実現しています。そのメカニズムを解明するには、さまざまな学術を必要とします。したがって、世界中の化学者、生物学者、物理学者たちが共同で研究に取り組んでいます。例えば、大型放射光施設やレーザー光を利用してヘムを含むタンパク質や人工的に合成した金属錯体の分子構造を調べることで反応メカニズムが考察されました。また合成した金属錯体を用いて生命の優れた化学反応を模倣する試みが行われてきました。この研究において、化学反応の途中で一瞬生まれる物質(反応中間体)をとらえてメカニズムの解明に向けた重要な知見が得られました。これらの研究をとおして自然の英知に一歩近づいたといえます。
生命の化学の仕組みをマネした先の夢
生体内の金属錯体の原理を理解して模倣できるまでには、まだまだ遠い道のりがあります。この研究が進めば人類共通の財産である化学の学問の発展に貢献します。さらに、持続可能な水素の製造や二酸化炭素を燃料に変える技術、希少元素を用いない燃料電池や次世代の電池の開発にもつながる可能性を秘めています。環境・エネルギー問題の解決に貢献できるかもしれないという、大きな夢をはらんでいるのです。
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