合成・反応・触媒が三本柱! 安価で高機能な低分子医薬を作る

合成・反応・触媒が三本柱! 安価で高機能な低分子医薬を作る

すべての人に薬が届くように

薬局や病院で出される薬は、多くが低分子化合物から作られた低分子医薬品で、安価に買えてコップの水で服用できます。それに対し、これまで治療が難しかった疾患に対して成果をあげている遺伝子治療薬などの生物製剤は、値段が高く、投与は医師による注射が必要であるなど、身近なものではありません。そこで、多くの人によりよい薬が届くように、有機化学から生命現象にアプローチして、がんの治療薬などの高度な機能を持つ低分子化合物を開発する研究が行われています。

薬剤抵抗性のある前立腺がんでは

前立腺がんにはホルモン療法が有効ですが、ホルモン療法を続けていくとがん細胞が進化して、ホルモン療法が効かない「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」になってしまいます。研究の結果、CRPCのがん細胞の増殖には、タンパク質を合成する際の「RNAスプライシング」の過程が関係していることがわかりました。そこで、CRPCの新薬候補に「RNAスプライシングを阻害する化合物(Spliceostatin A;SSA)」が挙がりました。ところが、このSSAにはマウスに投与すると死亡してしまうほどの毒性があります。そこで有機化学の技術を使い、薬として作用する分子の形はそのままに、副作用を起こす部分を改変するよう設計して、毒性のない誘導体の合成に成功しました。

合成・反応・触媒の三本柱

このような機能性分子の作成を支えているのは、合成、反応、触媒の技術や方法の研究です。
一般的な製薬過程では、たくさんの「ごみ」が出ます。例えば、反応促進のための触媒は溶液に溶かして使うため、反応後の溶液から触媒を取り除くときに精製剤が必要で、それもごみとなります。そこで新しく開発されたのが、パラジウムを板上に担持したナノ粒子触媒です。溶液に溶かさないので、精製剤を使わずに済みます。
また、このナノ粒子触媒は、天然物の抽出液に入れて加熱すると化学変化が起きるので、新しい薬の「タネ」となる化合物が得られると期待されます。

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先生情報 / 大学情報

大阪大学 薬学部 薬学科 教授 有澤 光弘 先生

大阪大学 薬学部 薬学科 教授 有澤 光弘 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

創薬化学、有機合成化学

先生が目指すSDGs

メッセージ

進路を選ぶときは、友達が行くからこの学部とか、とりあえず〇〇学部に入ろうではなく、自分が興味のあるものを見つけて、それをめざして勉強してほしいです。苦手でも面白いと思えればたぶん大丈夫です。なかなか興味の持てるものが見つからないなら、いろいろなものに触れるチャンスを積極的に増やしてみましょう。たくさん冒険して、「これなんやろ、これ面白そうやな!」というようなものを見つけてほしいです。もしそれが薬学であれば、ぜひ一緒にわくわくする研究をしましょう。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。