不思議な水で省エネルギー―基礎研究を応用に結びつける
弾性のある「ばねのような水」を作る
ビーカーに水を入れて撹拌し、撹拌をやめると、徐々に回転が遅くなって止まります。この水に洗髪用リンスに似た構造を持つ界面活性剤を添加すると、水はバネのような性質(弾性)を持ちます。弾性があると、撹拌をやめ、回転が徐々に遅くなり、止まるかと思ったら、反対方向に少し回転して止まります。撹拌中の様子をビーカーの横から見ると、水の場合は中心が円錐形にへこんだ渦ができますが、弾性を持つと渦が無くなります。渦の存在は、流れを阻害する抵抗が高いことを意味し、液体を輸送する際には無駄なエネルギーを消費します。バネのような水が、少ない抵抗で流れる現象を「抵抗低減効果」といいます。
建物、ビルの冷暖房システムで省エネルギーが可能
これまで「抵抗低減効果」を省エネルギー技術として応用する研究が行われ、ビルの冷暖房システムを中心に実用化が進められてきました。冷暖房システムでは、夏は冷水、冬は温水を製造し、ビルに張り巡らされた配管内をポンプによって輸送し、空調に使用します。このシステムにリンスのような成分をもつ「配管抵抗低減剤」を添加することで、ポンプの消費電力を15~40%削減することが可能になります。現在、国内200件を超える実用化例があり、世界でもわが国が「だんとつ」です。
再生可能エネルギー:地中熱利用システムへの応用
地中の温度は年間を通して15℃前後とほぼ一定です。つまり、地中は、夏の気温より低く(冷たく)、冬は暖かいため、化石燃料に頼らないクリーンな冷暖房システムを構築できます。地中熱利用システムでは、地中に100メートルほどの長さのパイプを何本も埋めて水を循環させています。東京スカイツリータウンは、これを実用化した一例で、従来のシステムよりエネルギー消費量の約48%削減に成功しています。一方、地下に埋めた長いパイプに水を流すために、ポンプの消費電力はかなりのものとなります。そこで、配管抵抗低減剤を使用し、省エネルギー化を図る実用化実験が進められています。
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先生情報 / 大学情報
山口大学 工学部 循環環境工学科 教授 佐伯 隆 先生
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先生への質問
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