地球の食糧危機対策は火星につながる? 乾燥に強い小麦の可能性

地球の食糧危機対策は火星につながる? 乾燥に強い小麦の可能性

乾燥に強い農作物をつくる

現在、気候変動や人口増による水の使用量の増加などによって、世界各地で干ばつが起きています。砂漠化で乾燥地が拡大して、農作物の生産に大きな影響を与えています。中でも小麦は、パンや麺類など多くの国で使われる作物ですが、世界的に生産が減少しています。小麦が乾燥した環境でも栽培できるようになれば、食糧危機対策に大きく貢献できます。
そこで、小麦の乾燥ストレスに関わる分子や遺伝子など、生育のメカニズムについての研究が進められています。そうして、遺伝子やゲノム情報といったバイオテクノロジーを用いることで、乾燥に強い小麦をつくれることがわかりました。

品質の維持も大切に

開発でわかったのは、乾燥に関わる一つの遺伝子を変換するだけで、在来種より少ない水で育つ小麦になることです。植物は水を吸い上げて栄養を吸収し、光合成をします。葉には気孔という開閉する小さな穴があり、そこで二酸化炭素を吸収して酸素や水を放出しています。その機能に関わる遺伝子を変換すると、必要な水分量は減り、タネの収穫量を変えずに栽培できるのです。節水できる点も、SDGsに直結します。
この方法による品種は、タネに必要なアミノ酸やタンパク質の合成に関わる遺伝子が十分に含まれており、品質にも問題がないことがわかっています。

いずれ宇宙で必要となる

従来の農作物の研究は、タネや果実を増やす、品質を変えるといった目的が中心でした。これからは、育成環境に着眼した改良が求められています。数年前に小麦の産地であるオーストラリアが大干ばつに襲われて、輸出ができなくなりました。日本は小麦の85%を輸入に頼っており、決して人ごとではありません。
今後も世界人口は増え続けるため、安定的な食糧提供には乾燥地で育成できる作物が不可欠です。さらに先の未来を考えると、人々は火星に移り住むようになり、地球より水が少ない環境で農作物を育てる必要が出てくるでしょう。そうした未来を見据えた研究ともいえます。

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先生情報 / 大学情報

山口大学 農学部 生物資源環境科学科 准教授 妻鹿 良亮 先生

山口大学 農学部 生物資源環境科学科 准教授 妻鹿 良亮 先生

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遺伝育種科学、植物生理学、分子生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

農学は動植物のほか、土地や天気など人間が生きていることに深く関わる学問です。例えばコメやイチゴ、トマトなどにおいて、新しい品種が登場することがありますが、その品種開発には必ずどこかの研究所が関わっています。開発されたものが生産者を介して私たちの元へ届くという、とても身近な研究といえます。現在は、ホームページなどで開発エピソードも公開されています。どういう経緯で開発されて、どんな環境でどう育つのかといったことにぜひ目を向けてみてください。農作物の見え方が変わるはずです。

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