看護や医療を経済学的に見てみると

看護や医療を経済学的に見てみると

看護師は転職が難しい

病院の診療報酬は基本的に、看護師の配置人数をベースに計算されています。従って、もし病院がより利益を上げようと考えるなら、キャリアのあるベテランの看護師より、人件費が安く済む新人を積極的に採用する方が有利です。しかし、新人ばかりでは看護の品質が下がり患者は不利益を被りますし、キャリアのある看護師も高い賃金を求めにくくなります。好条件を求めて転職しようにも、女性が多い職業であることから、家族のことを考えて遠方の病院では働きにくいという人も多く、都市部はまだしも、地方となると働き先が限られてしまいます。

訪問看護ステーションの広がり

そのため、看護師の技能を正しく評価し、診療報酬に反映させようという取り組みが始まっています。また、近年、新たな雇用の受け入れ先となっているのが訪問看護ステーションです。基本的には夜間勤務がないため、病院に比べると賃金が低くなる傾向にありますが、その分、育児中の母親などは働きやすいという利点もあります。労働環境は規模の大きさに左右されるところがあり、大きい施設であれば人員を確保しやすく、賃金や労働時間なども融通が利くのですが、管理職もフル稼働しているような小規模な施設もあります。国も大規模化を進めているのですが、やはり地方、特に各家庭への訪問に移動時間のかかる中山間地域は厳しい状況にあると言えます。

増える医療費負担と医療機関の思惑

日本全体で見れば、国の医療費負担の増加も問題となっています。紹介状が必要な病院を設けたり、診療所のかかりつけ医の機能を進めようとしたりする政策には、医療機関に行く機会を適切にしようという狙いがありますが、十分に機能していません。日本は窓口負担が少ないことから気軽にさまざまな医療機関を訪れる人も多く、経営的に見れば、その方が望ましい医療機関も中にはあるというのが難しいところです。日本の医療が破綻しないよう、国民一人一人がどうしたら適切に医療機関に受診することができるようになるのか考えていく必要があります。

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先生情報 / 大学情報

山口大学 経済学部 経済学科 教授 角田 由佳 先生

山口大学 経済学部 経済学科 教授 角田 由佳 先生

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医療経済学、看護経済学、労働経済学

先生が目指すSDGs

メッセージ

医療や看護に限らず、今の社会はさまざまな課題を抱えています。政府は改善するためのさまざまな取り組みを行っていますが、社会が目まぐるしいスピードで変わっていく中、政策が追い付いていないところがあります。そもそも、何がどう行われているのか、知らない人も多いので、もっと経済や社会に関するニュースを見て、今の世の中でどんなことが行われているのか知ってほしいです。そして、浮かんだ疑問に対して、こうしたらいいのではないかと考えるようにするとよいでしょう。

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