自己決定権を尊重しつつ、個人の財産を守る制度づくり
財産を守る後見人
成年、つまり18歳になると、例えばスマホを買う、部屋を借りるといった「契約」が一人でできるようになります。一方、高齢で認知症を患っているなど、判断能力が低下している人は、一人で契約をすることは困難であり、他の人が財産を管理することも重要になります。親族、弁護士、福祉施設、または市区町村などの養成研修などを受けた市民後見人などが、成年後見人として、本人の意思を把握しながら財産を管理します。
人間の「幸せ」とは
「財産を守ってもらえる」ことは喜ばしい制度のように思えますが、果たして「自分の財産を他人に管理してもらう」ことは幸せなことでしょうか。民法学では、「自分のことを自分で決められることこそが幸せ」という観点から、後見人の役割を最小限に減らすことが議論されています。成年年齢の引き下げでも、「自分のことを自分で決められることこそが幸せ」という観点が重視されました。それを実現するためにも、成年になる前に正しい知識をつけること、判断能力が低下する前に財産の管理方法や後見人を誰に頼むかを考えておくことはとても大切です。また、判断能力の有無にかかわらず、周りに相談できる環境があることは重要です。親族だけでなく、金融機関や公共団体など、社会全体がチームとなって弱者を見守る仕組みを構築することが求められます。
利益とニーズのバランス
最近では、銀行職員が異変に気付いて振り込め詐欺を食い止めたといった事例もありますが、銀行には顧客情報を外部に漏らすことができないなど、法律上の制約もあります。重要なのは、本人の期待を裏切らないことです。判断能力が低くなれば、サポートが必要ですが、管理が行き過ぎれば、本人が必要なときにお金が引き出せないなど、不自由な場面も出てくるかもしれません。一人ひとりのニーズが異なるなか、法律として一律のルールを決めることは簡単なことではありません。民法学は、それぞれの利益を守りつつ、多様なニーズに対応できるバランスの取れた法制度の確立をめざしています。
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