錆びない合金+微生物+海水で電気を起こせ!
金属が腐食する際のエネルギーを電力に
サビは金属の表面が酸化することで起こる電気化学反応です。酸化反応の際には熱エネルギーが発生しますが、この原理を利用したものが、使い捨てカイロです。一方、この温度差はセル(2電極とそれに挟まれる電解質)を構築することで外部に電気エネルギーとして取り出すことができるものです。つまり、金属を腐食させてしまう酸化反応は電力として活用できるわけです。
ステンレス鋼は海中微生物のオアシス
錆びやすい性質を持つ金属にはどのようなものがあるでしょうか。錆びやすさを示す指標に「イオン化傾向」があり、金やプラチナなどの貴金属はこの傾向が低く、アルミニウムやマグネシウムは高く錆びやすいです。塩分を含む海水ではこの反応が加速します。鉄も錆びやすいのですが、クロムなどを含む合金にすると表面に安定した皮膜が形成されて錆びにくくなります。この合金はステンレス(stainless)鋼と呼ばれますが、その名に反して海中では腐食しやすく船体の素材にはほとんど用いられていません。さらに、海中にはプランクトンなどの微生物が存在し、ステンレス表面の安定した環境を好み付着します。これによって酸化がさらに促進されます。この「微生物腐食」という現象を用いると、発電効率をさらに高められます。
微生物を活用した電池で航路を照らす
海洋微生物の働きを利用すると従来の12倍の電力を発生できますが、それでも実用的な電源としては性能が不足しています。そこで、プラス極を微生物電極、マイナス極にソーラーパネル用の電極を用いる新型の「微生物燃料電池(MFC)」の開発が進められています。この新型電池は、海上で航路を照らす灯浮標(ブイ)の電力源としての活用が期待されています。さらに、海上風力発電の補助電源として組み合わせ、地上に送電する研究なども進められています。
古くから研究されてきた金属の腐食を防ぐ技術と、微生物の働きを再生可能エネルギーとして活用する未来の技術は、実はまったく同じ化学反応を利用しているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋工学部 海洋電子機械工学科 教授 元田 慎一 先生
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