生物が作り出す物質を医・農薬に応用する
生物が作る代謝産物
生物は主に食べることで有機物を取り入れ、酵素による化学変化によって、エネルギーを得たり、体を構成する物質(タンパク質、炭水化物、脂質、核酸など)を作ったりして生命を維持しています。タンパク質など、広く生物に共通した生命維持に必須の物質を「一次代謝産物」といいます。それ以外の「二次代謝産物」には、特異な生物活性を有するものが多く、自然界における生存戦略において必要な化合物と考えられています。
おもしろい生物活性を持つ物質を研究する
青カビが周りの細菌の生育を阻止するために作り出す物質として見つかった「ペニシリン」は、感染症治療のため医薬品に応用されています。また、稲が実をつける前に必要以上に伸びてしまう馬鹿苗病の原因物質として馬鹿苗菌から見出された「ジベレリン」は、植物ホルモンとして広く知られ、今では種なしブドウの生産などに実用化されています。蚊取り線香に利用された除虫菊の殺虫成分として発見された「ピレトリン」は、有機合成の力で改良され、「ピレスロイド系殺虫剤」として毒性が低く安全な農薬に進化しています。生物が作り出すおもしろい活性を持つ化合物(生物活性物質)を、有機化学の力で人間の役に立てる応用研究が進んでいます。
医薬や農薬の開発に有機化学の力で貢献
生物活性物質を利用するためには、それを入手しなければなりません。しかし、生物からは微量しか取り出せないことがあります。そのようなとき、これらの物質の形=分子構造を解明し、効率の良い合成法を開発したり、さらに構造を変えた有用物質を創り出したりすることで医薬や農薬への応用が可能となります。大村智先生は、微生物が作る二次代謝産物から寄生虫に作用する物質(エバーメクチン)を発見、その構造を改変したイベルメクチンを開発、オンコセルカ病やリンパ系フィラリア症の撲滅に貢献しました。2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞したこの業績も、化合物の基礎研究からその応用までを行う「天然物化学」「農芸化学」の仕事の一つです。
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先生情報 / 大学情報
東京農業大学 応用生物科学部 農芸化学科 教授 松島 芳隆 先生
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