「そこにあるもの」を生かしたまちづくり
西成特区構想
大阪市西成区の「あいりん地区(釜ヶ崎)」は、多くの日雇い労働者が暮らす地域です。1970年の大阪万博や高度経済成長とともに発展するも、バブル崩壊による不況や労働者の高齢化などで貧困化が進みました。まちにはホームレスや不法投棄のごみが増え、治安も悪化していたのです。そこで2012年に大阪市長の肝いりで、「西成特区構想」が始まりました。まちの活性化やイメージアップをめざす取り組みで、大きな力になったのは「経済学の知見」と「対話」でした。
対話を重ねて合意形成
貧困対策としての物資や生活保護の支給は、効果が一時的で抜本的な解決にはなりません。そこで経済の有識者から、「あるものを『資源』として有効に使う」という経済学の原理原則に基づき、ホームレスや生活保護受給者たちに仕事をしてもらう案が出されました。自転車の整理や不法投棄の見回りといった、まちの治安改善や環境美化の仕事をすることでホームレスや生活保護受給者たちに報酬がもたらされ、経済的な自立にもつなげる目論見です。かつては労働者として経済成長を支えてきた人たちは技術力があり、「行政の世話にはなりたくない」と自負する人も少なくありません。さらにあいりん地区にはホームレスの支援団体や福祉団体、地元商店街や町内会などのステークホルダーも多くいます。そこで当事者や団体と地道な対話を重ね、まちの再生計画を一緒に作っていきました。行政が前面に出ることなく、「まちづくり合同会社」を立ち上げ、そこに仕事が委託される仕組みができたのです。
経済が循環するまちに
ホームレスや生活保護受給者たちには仕事と報酬だけでなく、社会参加の実感や、やりがいがもたらされました。さらに治安や美観が向上していくにつれ、まち全体も変わっていきました。日雇い労働者の宿泊施設は外国人観光客向けに生まれ変わり、シャッターが下ろされていた商店街にも観光客向けの土産店や飲食店ができて活気が戻り、経済が循環するまちになったのです。
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