色変化や運動・変形: 分子結晶の示す多彩なリアクション
刺激に応答する分子結晶
有機化合物の分子が集まってできた分子結晶の中には、光を当てる、温度を変えるなどの刺激を与えられると、色が変わる、飛び跳ねる、折れ曲がるなど、さまざまに性質が変化するものがあります。新しい有機化合物を作って、このような「刺激応答性」の分子結晶を開発する研究が行われています。
そのひとつが、力が加わると発光の色が変わる分子結晶です。この結晶に紫外光を当てると青い光を発しますが、結晶を乳鉢ですりつぶすと、黄色い光に変わります。そこに有機溶媒をかけると、再び青い光に戻るのです。
分子の配列が結晶の性質を決める
一般的に分子結晶の性質は、結晶の中の分子同士が及ぼし合う影響、すなわち分子の並び方で決まることがわかっています。青く光る結晶の構造では、分子と分子の距離が離れているので、隣の分子の影響は受けません。そこへ乳鉢で力を加えてすりつぶすと、分子の配列が変化して分子同士の距離が近くなり、相互作用を及ぼすようになります。その結果、2分子からなる新しい分子であるかのようにふるまうために性質が変わり、黄色い光となります。乳鉢ですりつぶすという操作が、その10億分の1ほどのスケールの分子の並び方を変化させているのです。また、有機溶媒をかけると青色の光に戻るのは、結晶の一部が溶媒に溶けてすぐにまた青い光の結晶になるためだと考えられます。
刺激に対する変化を自在に設計したい
この青い光から黄色い光へと変化する分子結晶は偶然発見されたものですが、この有機化合物をベースとして、力を加えると発する光が4色に変化する分子結晶や、目に見えない赤外光を発する分子結晶などが開発されています。
刺激を与えられた分子結晶の性質がどのように変化するのか、まだわからないことも多く、予想外の結果が生じることも少なくありません。狙った変化を起こせるようにするためにも、刺激に対する変化の予測をできるようななんらかの法則を発見すべく、研究が進められています。
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