「邪魔者」を利用した、世界最小電圧で光る有機EL
人気の「有機ELディスプレイ」にも弱点あり
近年、スマホやタブレットなどの多くに、「有機ELディスプレイ」が採用されるようになりました。従来の液晶ディスプレイと比較して、コントラストが鮮明で薄型化・軽量化が可能、さらに湾曲した画面も作れるというメリットがあります。ただ、「電子輸送層」「正孔輸送層」「発光層」などの複層構造が必要なため、異なる有機半導体間の電荷移動が悪く、光らせるための「駆動電圧」が大きいという弱点があります。600nm程度の波長の光(オレンジ色)を液晶ディスプレイ並みの輝度で発光させるために、乾電池3本分の4.5Vの電圧が必要なのです。
2つの励起状態をぶつけ、大きな励起状態へ
有機ELの省エネルギー化を図るため、有機半導体界面で「アップコンバージョン」という過程を経て発光させる手法が研究されています。先頃、世界最小電圧(乾電池1本分)で液晶ディスプレイ並みの明るさに発光する有機EL素子が開発されました。これは、電子と正孔とが2種類の有機半導体の界面で再結合する際に生成される2つの三重項励起状態(分子が光を吸収して、高いエネルギー状態へ励起した状態)を衝突させ、よりエネルギーが大きい励起状態を生み出す手法です。
乾電池1本でRGB全色の発光
異なる分子間を電子が遷移する際の発光を「エキサイプレックス」と呼び、有機EL素子では発光効率を低下させるというのが定説でした。しかし、先頃開発された有機EL素子は、電子輸送層や発光層に、既存の有機EL素子には使われていない分子や蛍光体を用いることで、邪魔者だったエキサイプレックスを有効活用することに成功しています。
今のところ、乾電池1本で明るく光らせることができるのは波長が長い(エネルギーが低い)オレンジで、青や紫の光には、さらに高い電圧が必要になります。そこで現在、光の三原色(RGB)のそれぞれを乾電池1本分で発光させられる有機EL素子の開発が目標になっています。
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富山大学 工学部 工学科 電気電子工学コース 准教授 森本 勝大 先生
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