宇宙からの放射線が半導体にトラブルを引き起こす!
原子核の振る舞いを調べるのは難しい
世の中に存在する物質は、主に原子や分子といった粒子から構成されています。原子の中心には陽子と中性子からなる「原子核」があり、その数や組み合わせによって物質の性質や振る舞いが異なります。例えば、水素の原子核は陽子1つのみで構成され、ウラン238の原子核は中性子146個と陽子92個で構成されます。原子核の構成が少数であれば、その振る舞いを表す方程式はシンプルですが、中性子や陽子の数が増えると難易度は飛躍的に高まり、その方程式を解くためにはコンピュータと専用のプログラムが必要となります。
身の回りにある自然放射線
多くの原子核を含む粒子の性質や振る舞いには未解明な点が多く、その研究には加速器を使用して光子や陽子などを原子核に衝突させ、放出されるエネルギーを測定する手法が一般的です。このような原子核の衝突現象は、私たちの身の回りでも絶えず起こっています。例えば、遠くの宇宙から飛来した宇宙線は、大気中の水分と反応してミューオンやニュートリノといった素粒子を放出します。ミューオンであれば、1平方センチメートルあたり毎分約1個の割合で飛来しているとされています。
宇宙線で生じる半導体のエラー
宇宙線に由来するミューオンや中性子が地上にある電子機器にも悪影響を及ぼすことは、これまでもある程度は知られていました。しかし、最近の高性能なコンピュータやスマートフォンに搭載されている半導体はとても精密です。以前よりも、回路に衝突した自然放射線によって生じる異常な電圧の影響を受けやすく、ソフトウエアのエラーが発生する確率が高まることがわかってきました。これは半導体内部のシリコンとミューオンが反応し、結果として生成される水素やヘリウムが異常な電圧を引き起こすためと考えられます。しかし、どの程度の水素が生成されるのかを示す実験データはまだないため、その対策のために新たな理論モデルを構築し、影響の予測や再現を試みる研究が進行中です。
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先生情報 / 大学情報
九州大学 理学部 物理学科 准教授 湊 太志 先生
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原子核物理学先生への質問
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