世界で初めて味を測る概念を提唱した味覚センサー
人間が感じている味覚は「舌での味」だけではない
私たちは本当に舌で味を感じ取っているのでしょうか。確かに砂糖をなめると甘いし、塩をなめるとしょっぱいので、間違いのない真実のように思えます。しかし、鼻をつまんでみかんジュースとりんごジュースを飲み比べてみると両者の区別ができません。このように、味に関与するのは舌だけではありません。人間が感じている味は、味覚や嗅覚(きゅうかく)、視覚、さらには過去の経験や習慣のような文化が統合された情報なのです。経験や文化というのは、昔嫌いだった食べ物が好きになる場合や、国によって「おいしさ」の基準が違うことを考えてみるとわかるでしょう。
このように味は文化や個人によって感じ方が異なります。しかも、その差が明確でない主観的なものです。ここで気になるのは、舌がどのようにして味覚情報を得て脳に伝えているかです。舌の味細胞には、酸味・苦味・甘味・うま味・塩味という5つの味に対応した受容体があります。食べ物(化学物質)が受容体と接触し、受容体に対応した物質があるとき、細胞内の電圧が変化します。その情報が神経線維を通じて脳に伝わるのです。
味覚センサーで5つの味を数値として示す
この仕組みを応用したのが「味覚センサー」という食べ物の味を分析する装置です。5つの味に対応した脂質膜を人工的に作り、食べ物を接触させることで膜の電圧変化を調べます。味によって電圧変化のパターンが決まっているので、そこから得られる数値によって食べ物がもつ5つの味の強弱やバランスを検出することができます。人間が感じている味は主観的ですが、この装置では味を数値として客観的に示すことができます。世界で初めて味を測るという概念を提唱したわけですから、これは、味覚の歴史の中では画期的な出来事です。すでに、新商品開発や競合会社との味覚戦略にこの装置を利用している企業があります。食べ物の味が数値化されることで、消費者も今後ますます味に敏感になっていくと考えられます。
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