エネルギー問題の解決にもつながる有機構造化学
新しい有機化合物をつくる有機構造化学
「有機構造化学」は、有機化学の一分野であり、有機化合物の構造や物性を詳しく調べます。有機構造化学の基礎研究では、さまざまな有機分子を合成して、X線構造解析などの分析技術を用いて構造を調べたり、酸化還元特性を含む物性を調べたりします。その中で新しく合成した有機化合物の特性が生きる応用が見つかった場合は、その応用に向けて研究を展開していきます。応用例のひとつが、「リチウムイオン二次電池」の正極活物質です。
リチウムイオン二次電池の課題
リチウムイオン二次電池はスマートフォンやノートパソコンなどのバッテリーとして使われており、私たちの生活になくてはならないものになっています。電池は電解液中の正極と負極の間で化学反応を起こすことにより電流を発生させるものです。リチウムイオン二次電池では正極にコバルトやニッケル、マンガンなどの希少金属が使用されており、採掘の際の環境負荷や資源枯渇の問題が指摘されています。そこで、資源が豊富に存在し、分子設計の自由度が高い有機材料の活用に期待が寄せられているのです。
有機正極活物質の欠点と解決策
リチウムイオン二次電池の正極に有機化合物を用いる場合の問題点は、電解液として使われる有機溶媒に対する溶解性が大きいことです。充電と放電の繰り返しによって電解液に溶け出してしまうため、容量が低下して、繰り返し使用できる回数も少なくなってしまいます。
正極として利用できる溶解性の低い物質が望まれてきた中で、テトラチアフルバレン(TTF)という物質に、ある化学修飾を行った有機化合物が、酸化還元反応によって重合し、溶けにくくなることが発見されました。また、この物質を正極に使った二次電池では初回充電中に分子がすべてポリマー(高分子)化し、充放電を繰り返しても容量低下が少ないことも確認されました。実用化をめざして、さらなる高性能化に向けた分子設計が進められています。
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