土壌に含まれた放射性微粒子からわかった、原子炉内の様子
セシウムはどこに飛散したのか
東日本大震災の際、福島第一原子力発電所の原子炉から、高濃度の放射性物質セシウムを含む粒子「CsMP(セシウムリッチマイクロパーティクル)」が放出されました。セシウムは人体の細胞に良くない影響を与える可能性があり、できる限り除去する必要があります。通常、セシウムは水に溶けやすく、土壌の粘土鉱物にがっちり吸着されて動きません。そのため、表層5センチをはぎ取ることで大部分を回収できます。これが「除染」という作業です。
CsMPを分析してわかったこと
ただし、福島の土壌を調べた結果、溶けにくいはずのガラス状の微粒子に溶け込んだCsMPも存在しており、それらの中にはホウ素やリチウムも含まれていることもわかりました。ホウ素やリチウムは原子炉の出力を調整する制御棒(B₄C)に使われていることから、メルトダウンの際に揮発してCsMPの中に取り込まれたとみられます。しかし、量はさほど多くないことから、制御棒の大部分は原子炉内に残っていると考えられます。同様の方法によりウランやプルトニウムの状態もある程度推測することができるなど、CsMPから原子炉内の様子がうかがい知れるようになっています。
詳細を知ることの重要性
大量の放射性物質を扱っている原子力発電所を解体、いわゆる「廃炉」にするのは一筋縄では行きません。しかも原子炉内は、周囲の構造物が溶け落ちて放射性物質と混ざり合った「燃料デブリ」という状態になっています。そんな状態のものを外気に触れさせると何が起こるかわかりません。そもそも人間が立ち入ることすら危険ですから、まずは原子炉内の状態を知ることが大事でした。状態がわかったことで廃炉に一歩近づき、将来的にはデブリそのものを分析することで、また新たなことが明らかになるでしょう。同様のことが起きた場合の備えはもちろん、放射性物質をどのように扱っていけばいいかという観点からも、メルトダウンの詳細を知ることは重要なのです。
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