講義No.08959 生物学 化学

遺伝情報発現の仕組みを知る「RNAの研究」

遺伝情報発現の仕組みを知る「RNAの研究」

遺伝情報はどうやって伝わるの?

親から子、孫には、顔や手足の形といった体の特徴や性格など、何らかの性質や形が伝わります。この伝達、遺伝に大きく関わっているのが、「DNA」です。DNAには、生き物の性質や特徴などの遺伝情報が格納されています。DNA上の遺伝情報は、「RNA」という物質を介して、人間が生きるために必要なタンパク質へと変換されます。この一連の流れを「セントラルドグマ」と言います。

まだまだ謎が多い「RNA」

遺伝情報を転写されたRNAは、編集加工されて、初めて細胞の中で役に立つ状態になります。セントラルドグマの原理が提案されたのは1957年のことですが、RNAが編集加工され、人間の体の中で機能する過程は、今でも最先端の研究テーマです。
例えば、ヒトとチンパンジーの遺伝子は、約99%が同じで、違いは1.23%のみです。もしRNAが、遺伝情報をただコピーするだけなら、両者は99%同じ存在となるはずですが、実際は大きく違います。それは、RNAの編集加工や制御の方法が違うからだと考えられています。

さまざまな生命科学の研究につながる

もっとも多彩な編集加工を受けるRNAに転移RNA(tRNA)があります。tRNAは、タンパク質合成装置リボソームにアミノ酸を供給し、同時に伝令RNA(mRNA)に写し取られた遺伝情報を読み取る装置でもあります。tRNAでは、編集加工の一つとして、メチル化やアセチル化などさまざまなタイプの修飾を受けますが、これらtRNA修飾の異常は、ヒトではさまざまな遺伝病の原因となることがわかってきました。また、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、tRNAのメチル化を利用して感染することもわかっています。このため、tRNA修飾の研究は、遺伝子診断・遺伝子治療の開発に直結し、感染症対策でも重要な分野になっています。さらに、tRNA修飾は、生物ごとに大きく異なり、生命の多様性や進化、環境応答を考察する上でも重要になっています。

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愛媛大学 工学部 応用化学科 教授 堀 弘幸 先生

愛媛大学 工学部 応用化学科 教授 堀 弘幸 先生

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生命科学

メッセージ

21世紀はライフサイエンス、生命科学の時代です。2000年代初めにヒトのすべてのDNA配列が解読され、ヒトが持つ遺伝子やヒトを形作る化学物質がどのように機能しているかが、少しずつわかってきています。生命科学の研究が進めば、これまで治療不可能だった病気を治す方法が見つかるかもしれませんし、人間の心の動きが科学的に説明できる日が来るかもしれません。
生命科学は、医学や農学、薬学、理学だけでなく、人文科学などの分野にも広がっていく可能性があります。その面白さ、奥深さに触れてみてください。

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