植物と動物のいいとこ取りで、環境汚染を検知
人間が一番危険にさらされている
ダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)、残留農薬などによる環境汚染が問題になっています。これら有機汚染物質の汚染濃度は、平均値でみればそれほど高くありません。ただし油に溶けやすい汚染物質は、動物のタンパク質にたまります。すると、その動物を食べる動物には、より多くの汚染物質が蓄積されます。こうして食物連鎖を経ることで、上位の動物ほど汚染物質の濃度が高まるのです。食物連鎖の最上位にいるのは人間です。ですから人間は環境汚染による「がん」などのリスクにさらされているのです。
動物が持っている能力を植物に移す
動物には、汚染物質を認識する能力が備わっています。例えばダイオキシンが体内に取り込まれると、特定のタンパク質(受容体と呼びます)が結合し、特定の反応を起こして体外に排出するのです。この受容体をたくさん持っているのが、解毒作用を受け持つ肝臓です。そこで動物が持つ受容体のDNAを取り出して、遺伝子組み換え技術を使って植物に導入するとどうなるでしょうか? 動物が持っているのと同じ特定の反応を起こす受容体を植物の中に作り出すことができるのです。
植物が汚染を教えてくれる
植物は地中に張った根から養分を吸収しています。仮に土壌に汚染物質がある場合は、それも根から吸収します。すると汚染が低濃度でも植物の体内に少しずつ蓄積されていきます。その植物に動物由来の受容体があれば、汚染物質と受容体が結合して反応を起こします。
この反応が起こった時に限って色素を作る遺伝子を受容体の遺伝子とともに植物の中に入れておけば、根からダイオキシンなどの汚染物質を吸収した植物は、指定した色に染まってきます。汚染量が増えていけば、色が濃くなるので、汚染度合いを視覚的に理解できるようになります。汚染による被害を防ぐためには、汚染地帯を知ることが第一です。動物と植物の機能をうまく組み合わせれば、植物を汚染検知に活用できるのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
神戸大学 農学部 生命機能科学科 応⽤機能⽣物学コース 准教授 乾 秀之 先生
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