100年前の教育運動から捉え直す探究学習

「子ども中心」の教育は新しい?
生徒が教科の枠を超えて主体的に学ぶ「総合的な学習の時間」は、2002年度から学校現場で本格的に始まりました。2022年度からは高校で「総合的な探究の時間」と改称され、課題解決のプロセスを重視する探究学習が重視されています。
このような子どもの主体性を重視する学びは、近年になって登場した新しいものと思っている人は少なくないでしょう。ところがそのルーツをたどると、100年以上も前の大正時代にさかのぼることができます。
盛り上がった「大正新教育」、だが……
1910~20年代にかけて、画一的な詰め込み教育に対する批判から、「大正新教育」「大正自由教育」と呼ばれる運動が起こりました。主導したのは現場の教師たちです。子どもの個性を尊重する教育へと改革する動きが教育雑誌での情報発信や授業見学などを通して広く共有され、運動は全国へ拡がりました。
しかし、この輝かしい運動は最終的に挫折します。戦争に向かう時代状況は何よりの障壁でしたが、子ども中心の学びがかえって学力低下や学力格差を招くという実践的課題が内在していたことも無視できません。都市部のサラリーマン層には新教育が支持される一方、実用的学力の習得を求める農村部や労働者層には受けず、また学歴主義を克服できなかったという課題がありました。この学力に関わる問題は、探究学習の論点として現代にもくすぶっています。
歴史の中にヒントを見い出す
1930年代に入ると、子ども中心の教育を発展的に継承する「生活綴方」運動が起こります。書く=表現を通して子どもを取り巻く生活現実を客観的に認識し、そこから自己のあり方・生き方を見つめ直す実践です。「社会の生きた問題」を取材・観察・探究し、自分はどう生きるかを探求する実践は、戦後の社会科、さらに生活科や総合的な学習を経て、今日の探究学習の理念・思想に連なります。
このように、教育の歴史を学ぶことは、現代の教育課題を再認識し、また、それを乗り越えるヒントを探ることにつながります。
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