機械工学の視点で解き明かせ! 細胞が力を感知する仕組み
細胞が力を感知する仕組みとは
無重力の宇宙空間に長期間滞在した宇宙飛行士は、骨密度が低下してしまうことが知られています。これは骨が作り変わる代謝活動に力の刺激が必要であるためです。そこで、骨の細胞が力を感知する仕組みを、機械工学の観点から解き明かす研究が行われています。
微小な生体材料を引っ張る
細胞全体の仕組みを理解するためには、まずその「部品」について知る必要があります。そこで着目されているのが、細胞表面にあって力を感知するセンサの働きをしている「焦点接着斑」という分子複合体の物理的性質です。
機械工学では、鉄やアルミなどの金属材料に引っ張る力を加えて、かたさなどの物理的な性質を調べます。細胞や分子にも同じ「引張(ひっぱり)」試験が可能です。細胞は10~100マイクロメートル程度の大きさなので、測定に使うのは原子間力顕微鏡という特殊な装置です。シャーレに細胞を接着させて、細胞表面にある焦点接着斑に原子間力顕微鏡の針の先端(数ナノメートル)をくっつけて引っ張ります。分子にかかる非常に小さな力は、顕微鏡内で光学的に拡大することで検出されます。そうして加えた力と分子の変形の関係から、焦点接着斑のかたさがわかるのです。
細胞の構造・機能解明や医学的な応用も
研究から、焦点接着斑のかたさは周りに働く力学的な条件により、数秒間隔で変化していることがわかりました。細胞が生存していくためには、環境の変化を敏感に察知して対応していくことが必要ですが、そうした細胞の素早い活動調整などに、焦点接着斑が重要な役割を担っている可能性があります。
焦点接着斑のような分子複合体や細胞小器官などの部品の性質、部品同士の関わりを明らかにすることで、細胞という「機械」の構造・機能が解明されようとしています。また、現段階で治療が難しい骨の病気には、医学や生物学の知識ではよくわからないものもあるため、骨の細胞への工学的なアプローチは新しい治療法にもつながるものとして期待されています。
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