野球肘ー客観的に負荷を測定し、ケガの予防につなげるー

最新デバイスでの測定がけがのリスクを軽減
スポーツ選手にとって、切っても切れない関係にあるのがけがです。けがによって長期間、競技から遠ざかる、あるいは引退を余儀なくされる人も少なくありません。そういったケースを減らすために、スポーツ科学や医療の分野では、最新のデバイスで数値を測定しながら日々研究が進められています。
選手生命を左右する2種類の野球肘
野球肘は選手生命に関わるけがとして知られていますが、実はこれには2つの種類があります。
1つは肘の内側の靭帯損傷です。大谷翔平選手らもこれにより手術を行っていますが、研究の結果、野球肘を発症してしまう選手は、若い年代で一度同じけがを負っている場合が多く、再発率も4割に上ることがわかってきました。さらに若い年代においては、ボールの握り方、手の大きさとボールの大きさの相関関係、投球頻度が要因となることも明らかになっています。
もう1つが、投球で腕をしならせるときに肘の外側の骨同士がぶつかることで起こる、「離断性骨軟骨炎」と呼ばれるものです。これは子ども特有のもので、痛みがないまま末期まで進行してしまい、復帰には手術と1年ほどのリハビリが必要になるケースがほとんどです。
正しい復帰のために
1000人規模の野球少年を対象とした「野球肘検診」など、予防も盛んになりつつありますが、けがをした後の復帰への正しいプロセスも大切です。手術後、投球を再開するときは徐々にその強度を高めていきますが、現在始まっているのが、肘の負荷を計測できるセンサを装着した状態で投げることによって、投げた本人の感覚としての50%の投球が、実際に肘の負荷も同じく50%になっているのかどうかを測定し、検証する取り組みです。感覚にはばらつきがあり、また子どもと大人では体の制御といった部分で差があるため、客観的な数値が重要です。こういったリハビリや復帰プログラムを精査する研究が、競技への復帰、パフォーマンスの維持、向上を後押ししています。
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帝京平成大学健康医療スポーツ学部 リハビリテーション学科 理学療法コース 准教授田中 直樹 先生
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