「中間子原子」で探る物質の根源

物質の最小単位で働く「強い相互作用」
私たちの身の回りの物質は、原子からできています。その原子は原子核と電子からなり、原子核はさらに陽子と中性子で構成されています。その陽子と中性子は、「クォーク」という最も基本的な粒子からできているのです。このクォークたちの間には「強い相互作用」と呼ばれる力が働いており、これは重力や電磁気力などと同じ自然界の4つの基本的な力の1つです。身の回りの物質の質量を担う陽子と中性子は3つのクォークで構成されていますが、クォーク3つの質量を足しても陽子1つの質量には全く足りません。この物質の質量の起源についての謎は「強い相互作用」と深く関係していると考えられています。
自然界に存在しない物質を創って調べる
「強い相互作用」の性質を明らかにするために、「中間子原子」という特殊な物質を使います。中間子とはクォークと反クォークが結合した複合粒子です。クォークの種類によっていくつもの中間子が存在します。その中で最も有名なπ中間子は、湯川秀樹博士により理論的に存在が予言され、後に実験で確認されたものです。そうした中間子が原子核に束縛された状態が中間子原子です。中間子原子は自然界には存在しませんが、大型加速器を使い、人工的に創り出せます。この中間子原子を詳しく見ることにより質量起源の謎に迫れることが期待されています。
理論と実験の両輪で切り開く未来
このテーマに関連する研究は世界中で盛んに行われています。理論研究によってどのような粒子がどの条件で現れるのかを予測して、それをもとに実験が設計・実施されます。また、その予測をもとにした、スズを標的原子核としてπ中間子原子を生成する実験から、世界初の観測を成功させるなどの成果が挙げられています。より多様な原子核と中間子の組み合わせを調べることで、さらなる謎の解明が期待されます。
これらの研究は、科学の最前線を切り開くだけでなく、私たちの世界観そのものを変える可能性を秘めているのです。
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