講義No.13373 数学

素数を扱う関数と原子核エネルギーの不思議なつながり

素数を扱う関数と原子核エネルギーの不思議なつながり

素数の個数の求め方は?

100以下の素数はいくつあるかといえば、順番に数えて25個だとすぐにわかります。1000以下の素数は168個で、これも数えられなくはありません。しかし1万以下、10万以下と数が大きくなっていくと、もう数えるのは困難です。ではX以下の素数の個数をXの式で表せるかというと、素数の性格を反映させたきれいな公式で表すことはできません。小さいものから順に数え上げるような式しか作れないのです。そこで、X/logXという値で近似します(logは自然対数)。Xが大きくなるほど、X/logXの値は実際の個数に近づいていきます(素数定理)。

整数論とゼータ関数の関係

さて、「整数論」の特色は、問題を解くために数学のあらゆる手法を用いる点にあります。この素数の個数の近似問題も、「ゼータ関数」という関数の値が0になる点(零点)の分布がわかれば、近似の精度があがります。ゼータ関数を一般化したものが「L関数」とよばれるもので、L関数の零点の分布がわかると、例えば「aで割ったらb余る」というような特殊な素数についての情報も取り出すことができます。素数が無限個あることの証明は高校数学でもできますが、「aで割ったらb余る」素数が無限個あることの証明はL関数のような飛び道具が必要です。

数学と物理、異なる分野の奇妙な一致

このように、これまで整数論の一分野として、素数の問題を解くために研究されてきたL関数の零点の分布ですが、近年、物理学の一分野である「ランダム行列理論」という理論を使って説明できることがわかってきました。行列とは、数や記号、式などを縦横に並べたもので、ランダム行列理論は、物理学の分野で原子番号の大きい重い原子核のエネルギーを説明するために使います。このエネルギーに関する式と同じものが、L関数の零点の分布にも出てくるのです。L関数の零点の分布とランダム行列理論がどのような関係にあるのか?といった研究が進められており、新しい関係性や現象が発見されています。

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金沢大学 理工学域 数物科学類 准教授 杉山 真吾 先生

金沢大学 理工学域 数物科学類 准教授 杉山 真吾 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

整数論、代数学、解析学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私が数学の研究をしているのは、数学が好きだからです。もしあなたも数学が好きなら、その気持ちを大事にして、数学が学べる学部や学科に進んでほしいです。テストの点数のよしあしや就職に有利かどうかではなく、面白いと思うものにチャレンジしてください。一方で、いまの時代に欠かせないコンピュータもAIも、バックグラウンドは数学です。産業への応用には直接関わりのない研究であっても、最先端の数学は産業界に必要なものなので、研究の成果は社会に還元されていくのです。

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金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。